コラム

米政権交代で「慰安婦合意」の再来を恐れる韓国

2020年12月25日(金)21時35分

そして実際、この様な文在寅政権のやり方は効果的だった。日本政府の否定的な姿勢にも拘わらず、彼らはある段階までアメリカを北朝鮮との間の協議に引きずり出す事に成功した。同時にトランプ政権は日韓両国の関係悪化には関心を見せなかったから、韓国政府には、日韓両国の間に横たわる歴史認識問題で、アメリカから圧力をかけられる心配も存在しなかった。

韓国政府はこの様な経験を自らの日本に対する相対的な成功だと受け止めた。そしてだからこそ、彼等はアメリカからの圧力を恐れる事無く、対日関係の悪化を放置できた。

しかしながら、バイデン新政権は、オバマ政権と同じ民主党政権であり、多くの政策や意思決定の方法を継承すると見られている。バイデンが東アジア外交に大きな関心を有している兆しはなく、だからこそ、ここにおける政策は「ボトムアップ」型で作られる可能性が高い。そしてその事は、再び、韓国政府がワシントンにおいて、歴史認識問題や北朝鮮に対する施策において、自らと全く異なる見解を持つ日本政府と ──朴槿惠政権期と同様の形で ──競争を余儀なくされる事を意味している。

そしてここで韓国政府が懸念するのは、日本が再び自らのこれまでの蓄積を生かして、バイデン新政権の東アジア外交を自らの望まぬ方向へと導く事である。

「日韓は関係改善を」

事実、今年11月に入ってからの、朴智元国家情報委員長や韓日議員連盟所属議員たちの来日や、文在寅政権下における数少ない「知日派」の一人として知られる姜昌一前韓日議員連盟会長の駐日大使内定の背景にも、この様な懸念があると言われている。つまり、この様な動きには韓国政府が日韓関係改善の為に努力をしている事を新政権やその関係者に見せる、「アリバイ作り」としての一面があると言うのである。

そして、韓国政府によるこの懸念は今日、現実になるかのように見える。注目されているのは、12月7日に発表された"The U.S.-Japan Alliance in 2020: AN EQUAL ALLIANCE WITH A GLOBAL AGENDA"と題するCSISのレポートである。この「第5次 アーミテージ・ナイ・レポート」とも呼ばれる文書にて、著者達は次のように呼びかけている。


ワシントンと東京は、これらの連携を構築する上でいくつかの課題を克服しなければならない。その中でも特に重要なのは、日本と韓国の間の緊張が続いていることである。米国は、北東アジアの2つの同盟国が、さまざまな地域的・世界的な問題について建設的かつ現実的に協力することを必要としている。

北朝鮮や中国の課題に対処し、より広範な経済、技術、ガバナンスの課題を設定するためには、両同盟国は極めて重要である。双方は、過去ではなく未来に焦点を当てる必要がある。東京とソウルの関係を強化することは、米国の同盟国との二国間関係を強化することになる。菅首相と文大統領が再出発の重要な機会として捉えるべき漸進的な進展の兆しがある。その意味では、五輪に向けた二国間協力が目前に迫っている.

(出典「【全文】2020年アーミテージ・ナイ・レポート(翻訳)」)

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story