コラム

トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(前編)

2017年03月06日(月)19時00分

トランプは消費税・付加価値税の還付制度を事実上の「販売奨励金」と見なしている Henry Romero-REUTERS

<消費税制度は輸出企業に対する販売奨励の側面があり、トランプ政権が「国境税」を提唱したことでその事実が認知されたことはポジティブな点>

年明けからどういう風の吹き回しか複数のテレビ番組から出演オファーを頂戴しました(選り好みできる立場ではないとお引き受けしましたが、民放さんの討論番組向きでは全くないと深く反省)。余談ではありますが、前回、地上波からオファーがあったのは最初の消費税10%増税の延期が発表される直前(2014年11月)でしたので、お声がかかる時は消費税絡みで政治的に何かある時かしら?と勝手なバロメーターにしています。あくまでも個人の感想に過ぎませんので悪しからず。

消費税増税に反対どころか引き下げを訴え、軽減税率の採用などとんでもないと以前からコラムでお伝えしてきました。人もモノもお金も情報も国境を越えて自由に行き来できなかった1954年に、フランスで制度設計されたのが付加価値税(日本の消費税に相当)です。日本の消費税の産みの親であるその欧州とて「公平性」「中立性」「簡素性」に欠けるとして、抜本的な付加価値税改革に乗り出しているのが現状です。

具体的には過去数十年の間に激増した国際取引の情況や技術革新に合わせて、軽減税率の縮小・撤廃、輸出還付制度のEU域内での廃止などを盛り込んだ内容となっています。駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジンによれば、改革により税収増が期待され、現在各国20%前後になっている「標準税率を下げることすら可能との結果が出ている」とのこと。

【参考記事】トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」

旧態依然としたままの日本の消費税制度は廃止すべしとまで訴えるワタクシなどは消費税肯定派や増税派の皆様からすれば主要メディアには出してはいけない人間のはず。ましてや拙著『アメリカは日本の消費税を許さない』(宣伝のようで恐縮ですが事実提示のためとご容赦いただければと思います)を地上波に乗せて大丈夫なのですか?と思わずこちらが確認してしまったのですが、「あらためて読んだ上での事ですから」と仰って頂いた先もありました。

アメリカはかねがね日本の消費税や欧州の付加価値税を「関税」あるいは「非関税障壁」と見なしているため、日本が安易に消費税増税をすればアメリカにとっては関税の引き上げ=自国企業への優位策と映り、かなりキツ目に文句を言われるはず。文句どころか強烈な通商交渉や相殺措置を仕掛けてくるのではないですか?という点について、ワタクシ自身が米公文書館に引き籠って見つけてきた米公文書などを元に解説した内容だったのですが、上梓したのがかれこれ4年程前。正直なところ売れ行きは全く芳しくない状況でした。

それが皮肉なことに、個人的には政治家以前に人として全く評価していないトランプ氏が選挙期間中から消費税・付加価値税の関税としての役割について大々的に問題提起し、大統領になった今「国境税」も織り込んだ税制改革への着手が現実味を帯びてきたことで、一瞬ではあるにせよ拙著にスポットライトが当たるとは――。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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