フランスが直面した軽減税率「陳情」合戦の不公平
フランスでは軽減税率を勝ち取ろうと各業界の陳情合戦が繰り広げられている OfirPeretz-iStock.
2017年4月に消費税率を10%に引き上げる際に税率を8%に据え置く軽減税率の対象品目を、酒と外食を除く食品全般とすることで合意がなされました。経済学者、まともな有識者のほとんどが反対する中、政府関係者の他、新聞社など軽減税率の対象業界を除いて、軽減税率賛同者を見つける方が大変なぐらいです。
一般国民の声などぞんざいにしても構わないというのが本音というのはわからなくもないですし、ワタクシのような亜流で末端の発信者の声がスルーされるのも慣れていますのでさほど驚きはしませんが、安保法案しかり、これまで政府寄りだった経済学者や有識者が反対といっても合意してしまうのですから、政治の力ってすごいですよね。
軽減税率の抱える数々の問題については多くの方が発信されておりますので、今さらここに書く必要もないと思います。ワタクシ自身も早々に寄稿いたしておりますので、参照いただくとして、1点だけ補足を。
消費税が実にややこしいのは個別の商品1つ1つの税額を計算しているわけではなく、売上げと仕入れの全体の数字を元に計算、つまり年間の売上高に税率をかけた金額から年間の仕入高に税率をかけた金額を控除して納税額を計算する仕組みである点です。したがって、一個一個の品物として計算をすると間違うことになります。
消費税10%となった段階で食品8%とする今回の決定を前提にしたペットボトルの例ですが、もしある企業がペットボトルだけを製造・販売していたとします。この業者はペットボトルの年間売上高×8%から、中身の水の仕入高×8%とボトルやラベル・電気代・運送代などの周辺取引×10%を差し引いた額を納税します。
もしこの業者が良心的で消費税納税額が軽減された分を公表し、それに相当する金額を一個一個の商品の値段とすれば、理論的には価格は据え置かれる可能性があります。しかし、周辺取引が10%になったため、この業者の金繰りが悪くなり、ペットボトルの価格を引き上げることもあるでしょう。消費税法は価格決定権を事業者に任せていますから、理論上価格が据え置かれるはずだといってもそうなる保証はありません。
水などの原価は8%、周辺取引は10%分の控除によって机上の計算では納税額は少なくなるはずです。しかし、わが国は公定価格制ではなく、価格決定は事業者の裁量にまかされている以上、価格は自由に変動します。しかも、この業者の納税額(補助金額になる可能性が多分にある)が決まるのは1年後、決算が終わってからでないとわかりません。1年後にわかる軽減税率による減税分を前倒しして、あるいは翌年以降、ペットボトルの値段に1本ずつ正確に反映させることを事業者はするでしょうか。事務処理の煩雑さやコストを考えても、実際の商取引ではほぼ不可能でしょう。
消費税は個別の商品についてきれいに把握できる間接税ではないために、非常に不透明な税金であることがご理解いただけるのではないでしょうか。ドイツの軽減税反対の議論や米国が消費税(付加価値税)を採用しない最大の理由はまさにこの点で、この税金が非常に不透明であり、モノの値段に埋もれてしまう性質を問題視しているからです。
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