前回に続いて為替操作に関して「監視リスト」入りを果たした日本
日本についての詳細の前にグローバル経済について。世界的な経済成長は1990年から2006年までの平均が3.6%だったところが2015年には3.2%、2016年は3.1%(IMF試算)、2017年も控えめになると見立てています。ちなみに、原油価格の低下による消費増は当初期待されていたよりも小幅であった、サプライズ要因となった英国のEU離脱によるネガティブな影響は今のところ muted(鳴りを潜めた状態) としています。低迷する世界経済の打開策として、特に低所得者層や家計の所得を引き上げることで包括的かつ持続的な成長を引き出す、内需に重きを置くマクロ経済政策を各国に推進するよう訴えています。
日本に言及している部分では、「アベノミクス」を推し進めるため、当初2017年に予定されていた消費税増税の再度延期を5月に決定後、8月には安倍政権最大となるGDP6%に及ぶ緊急経済対策を発表したものの
although new spending will only account for roughly a quarter of the headline number.
(新規の財政出動は見出しの1/4程度に過ぎないだろう)
と事業規模は確かに28兆円越えだが、真水は7.5兆円に過ぎないと冷ややかな評価になっています。それを踏まえた上でということでしょう、最新のIMF試算に基づくものではありますが、先進国全体の成長が2016年1.6%から2017年には1.8%まで、米国の成長を1.6%から2.2%まで引き上げと予想をする中、日本は0.5%から0.6%(ユーロ圏は1.7%から1.5%)としています。
【参考記事】米経済学者のアドバイスがほとんど誤っている理由
金融政策については日銀が2016年1月に「マイナス金利」を採用、9月には従来のマネタリーベースの拡大から「イールドカーブ・コントロール(短期から長期まで利回り曲線全体を操作)」と「インフレ・オーバーシュート・コミットメント(インフレ率が2%を超えてもある程度の期間、現状の金融緩和政策を継続)」へ、政策の焦点を fundamentally shifted(根本的に転換した) と指摘。構造改革に関してはコーポレートガバナンスなど一部には進捗が見受けられるものの、remain essential(依然として不可欠) としているのはTPPの国会での承認の他、労働市場及びサービス部門での改革です。TPPについては現状保護されている農業部門や自動車部門等の改革を進める第一歩として重要としています。
為替に関してより具体的に、今年に入ってから9月末までドルに対して円は18.7%上昇しましたが、その要因として、英国のEU離脱のようなリスクが顕在化する際には避難通貨として円が選好されやすいこと、米国の利上げペースが予想よりも緩慢で日米金利差が開かなかったことをあげています。加えて日銀による「マイナス金利」の実施により、2%のインフレ・ターゲット達成の手段を使い果たしたとの市場の思惑があったことにも言及していますが、円相場の動きは中期的なファンダメンタルズ(基礎的条件)に沿っているとして、特に円高が進んだことを問題視はしていません。
この筆者のコラム
アメリカの「国境調整税」導入見送りから日本が学ぶこと 2017.08.04
加計学園問題は、学部新設の是非を問う本質的議論を 2017.06.19
極右政党を右派ポピュリズムへと転換させたルペンの本気度(後編) 2017.04.13
極右政党を右派ポピュリズムへと転換させたルペンの本気度(前編) 2017.04.12
トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(後編) 2017.03.07
トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(前編) 2017.03.06
ブレグジット後の「揺れ戻し」を促す、英メイ首相のしなやかな政治手腕 2016.12.26