コラム

障がいがある子の新米お母さんたちへ、今伝えたいこと(後編)

2016年08月02日(火)17時00分

Nadezhda1906-iStock.

前編から続く

 今回の事件を受けて、知的障害者の権利擁護と政策提言を行う「全国手をつなぐ育成会連合会」が声明を出し、私自身もツィッターやフェイスブックで「全力で皆さんを守ります」とコメントをしながら声明文を紹介しました。私と繋がっている多くの皆さんがすぐに「全面的に支持します」「守る側に〈絶対的に〉連帯します」「こうした理不尽を絶対に社会は認めない」「障害者も健常者も共に助け合い支え合って生きねばならない、それが社会に大きな価値を生み出す」と意思表示をしてくれました。「私も」と一言だけ添えてくれる人も多かったです。こうした書き込みを見る度にこみ上げる思いがしましたし、本当に心強いと感じています。

 娘の場合、知的の区分けをすると重度に分類されるようです。ようです、と言うのは知的重度と言ってもジェスチャーや表情など本人の感情表現は実に豊かで、どうやら発話出来るかどうかが1つの判断材料にはなっているようですが、意思疎通がそれなりに図れる以上、何をもって重度・軽度とするのか正直なところ私自身がよくわかってないためです(区分けに不満があるということでは全くありません)。かく言う私は元々文学部出身で、文学と言語学を専攻し、語学を含め教員の経験もあるため、そして文筆業もしてきましたので、これまでの人生の大半はコミュニケーション・ツールとしての言葉に漫然と重きを置いてきました。しかし、娘を育てているうちに例えば手話だって立派な意思疎通を図る道具であるように、コミュニケーションを言葉だけに限定するのは実は狭窄的であることに気がつきました。言語とは何か、どうあるべきなのかという根底の部分も考えるようになりました。先日来日した英国ロイヤルバレエ団のアウトリーチ活動に同行したことも影響しているかもしれません(バレエでは踊りが言語。言葉はいらないのです。言葉はないのに言語の本質がそこにはあります)。

 他のお子さんと比べたら、娘に出来ない事は沢山ありますが、同じ知的重度といっても障がいのバリエーションは様々で、療育の中で改善していくことももちろんあります。受け止める親側の精神状態も周囲のサポートの状況などで変わってきます。幸いなことに障がいを前向きに受け入れてくれるコミュニティに私自身が身を置いていること、それで随分と救われているのは間違いありません。最近では健常者との線引きすら自分の中では曖昧になってきていますが、自身の考え方と周囲の支援によって、自分の意識も実際の状況も劇的に変わるものです。

 あなたのお子さんが私の娘のように重度との診断をされても、どうか絶望しないで下さい。それで世界が終るわけではありません。むしろ、産んだ当初は思いも寄らなかった重層的で濃密な毎日が待っています。予想もしなかった方向に世界も広がっていきます。そして、どんな障がいであっても、極めて例外的な今回のような事件によって、あなたとあなたのお子さんが怯えて過ごす必要はありません。再発防止に政府も早速取り掛かっています。私を含め、多くの人たちが全力であなたとお子さんを守ります。

 私の子育てが参考になるかどうかわかりませんし、障がいのある子どもの子育て歴7年などまだまだヒヨッコ、これから先の方が苦労は絶えないのかもしれませんが、少なくとも私の7年間の子育てはどの瞬間も笑いが絶えず、とても楽しい毎日でした。なぜかと言えば娘がかわいくてかわいくて仕方ないから。私の日常をご存じない方、間近で見てない方は、障がいを抱えた子どもを持つカワイソウな母親の戯言と思われるかもしれませんが、娘との毎日が楽しいのは事実なので仕方ありません。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story