英メディアを離脱支持に回らせた「既得権益」
Neil Hall-REUTERS
<EUはイギリスの軽減税率(0%)を問題視していた。国民投票で新聞業界はなぜ離脱を煽ったか? 消費税・付加価値税の観点からブレグジットを見れば、移民問題などとは別の側面が見えてくる>
懇意にしている在英の小野昌弘氏(インペリアルカレッジロンドン上席講師、医師・免疫学者)からまもなく来日予定の英ロイヤルバレエ団が、日本でのアウトリーチ活動を所望しているのにもかかわらず、その場を探すのに苦慮しているとの一報が平素お互いの連絡用にと利用しているチャットに入ってきたのが数週間前。
アウトリーチ活動とはなんぞや? と思われる方も多いはず。直訳すれば「手を伸ばす」となりますが、地域社会への奉仕や支援活動を生活の現場に出向いて行うものです。バレエのすそ野を広げる=将来の観客を増やす意図もありますが、それ以前に先立つ理念として、様々な理由から芸術を体験する機会のない人たちに、ダンスやバレエへのアクセスがない子供たちにその機会を提供したい、ダンスを見て・参加して・楽しんでほしいとの public engagement への純粋な思いがあるのもまた事実。単なる集客ではなく、多角的、長期的展望に基づいているのは若いダンサーの発掘とその進路の確立、地域から国家レベルまで幅広いダンス教育の相互関係をロイヤルバレエ団が標榜していることからも明らかです。
ということで今回、地元の支援学校を紹介し、4日間の彼らのアウトリーチ活動に同行いたしました。通訳も兼務しておりましたが、生徒たちとバレエ団の間に言葉は不要、宝物のようなキラキラした瞬間を何度も垣間見られたのはまさに役得。詳細をご報告する機会があればと思いますが、今回のテーマは英国つながりからEU離脱となった英国国民投票について、にいたします。
数年前までソリストとして大活躍し、現在は教育部門のトップとして日本でのアウトリーチ活動を中心的になって行ってくれた同志デイビッド(David Pickering)は期日前投票をしてきたとのことでしたが、投票結果を受けての第一声は「disaster(大惨事)」。
「EUからの予算および人の流れという実質的ダメージも大きいのですが、EUに象徴されていた知識人・グローバル高技能労働者・高学歴中間層の思想的・社会的敗北、といってもよいのだと思います」というのが小野氏談。
【参考記事】<論点整理>英国EU離脱決定後の世界
来日公演直前、ロイヤルバレエ団はその最高位であるプリンシパルに平野亮一氏と高田茜氏(茜さんは日本での唯一のオフを支援学校でのアウトリーチ活動に費やしてくれました)を昇格させたニュースがありましたが、バレエ団に所属するダンサーはまさに多国籍。その中で切磋琢磨し、最高位まで登りつめた彼らは本当に素晴らしいと思います。ショービジネスが関わるだけに様々な思惑が絡んでくることもあるでしょうが、そうした次元の話とは別に、ロイヤルバレエ団、そしてバレエ団の所属するロイヤルオペラハウスが本当の意味で多様性を尊重している証左でもありましょう。その所在地ロンドンは今回の国民投票でEU残留が大勢を占めた地域でもあります。
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