英メディアを離脱支持に回らせた「既得権益」
すでに英国紙などで分析されていることではありますが、移民との接点が普段から多く(多国籍が当たり前=多国籍に寛容)な地域でEU残留支持が多く、移民との接点が少ない地域ほど、EU離脱支持との皮肉な結果となっています。それが今回の選挙行動のすべての要因などと分析するつもりは毛頭ありませんし、理由は様々であることは百も承知のうえで、日常生活の中で直接手を伸ばして届く距離にいない誰かへのフォビア(恐怖症)をともすると抱きやすいようで、それをEU離脱派がプロパガンダとして利用した側面は否めません。
英国のEU離脱問題は実に複雑な要素が絡まっていて、わかりにくい。複合的な要因を紋切型に単純化して、わかりやすく解説するのはむしろ無責任でもあり、事実から遠ざかるということで危険でもあるでしょう。そこでワタクシとしましては、税制という、あくまでも1つの切り口に特化して分析、検証をいたしたいと思います。最初に結論を申し上げますと、税制面から鑑みた場合、英国のEU離脱にワタクシは反対という立場です。それは中間層以下の国民経済の回復を離脱派が掲げながらも、実は全くその気はなく、単に自分たちが税制面でこれまで優遇されてきた既得権益を温存したいとの利己的な思惑が見え隠れしていたためです。そもそもの政策のまずさを顧みる内側からの自助努力なしに、原因は移民やEUという外的要因にあるとする考えにもかなりの違和感を覚えます。
前回、EUはこの度、消費税・付加価値税制度そのもののあり方を根本的に変える、消費税・付加価値税の歴史に残る大転換とも言うべき恒久改革を公表したことをお伝えしました。英国がこのままEUに残ればこのEU改革にも従わねばなりません。対して、離脱すれば、EUの付加価値税制度に縛られることはありません。EUの付加価値税改革では英国の多岐にわたる軽減税率、0%税率を問題視(ガーディアン紙2016年1月28日付「英国の付加価値税控除に疑問を投げ掛けるEU計画」)していましたので、EU残留となればこれまでの0%税率を中心に軽減税率の撤廃を含めた見直しを英国が迫られるのは必至です。
離脱派は特に光熱費の軽減税率について強く主張していました(BBC「離脱派は光熱費への付加価値税を断ち切りたい」)。よりわかりやすく、英国の光熱費が高いままで減税できないのはEUの税制に縛られているからであり、EUを離脱すれば英国は独自の軽減税率を敷くことができる。軽減税率適用の結果、光熱費が安くなるというのです。
軽減税率でモノの値段は下がらないどころか、対象業界への補助金になることはこれまでこのコラムで何度も触れてきましたし、EUもそうした軽減税率の問題を鑑みて今後の軽減税率の撤廃・縮小を決めた経緯もお伝えしてきました。税制面からみた場合、より公平、中立、透明性を高めることで、中小零細企業も含めた経済活動の活性化、国民経済の発展を目指すのがEUであり、そこに留まろうとする残留派と、国民経済目線を標榜しながら逆進性解消には全く役に立たないと烙印を押された軽減税率について、その致命的な欠陥をベールに隠しながら推進するEU離脱派と、どちらがより国民経済目線なのかは一目瞭然でしょう。
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