コラム

フランスが直面した軽減税率「陳情」合戦の不公平

2015年12月16日(水)20時15分

 こうした事例から考えるべき問題点が複数あげられます。

①消費税制度というのは税率を上げれば必ず低所得者配慮と称して軽減税率導入の話が出てきます。本来、低所得者を配慮するなら消費税を廃止し、所得税などの累進課税で徴税するのがもっとも公平でベストです。しかし、消費税をいったん導入してしまうと、ベストの選択肢については封印され、セカンドベストだけで話がすすんでしまいます。

②セカンドベストで語るなら、給付でまんべんなく配る方法がありますが(余計に配ってしまった分は所得税の累進課税で回収すればよいだけです)、そうした話にはならず業界からの陳情で軽減税率に軸足が移ってしまい、格差や不平等の解消にはほとんど役にたたなくなってしまう。

③軽減税率により更なる不公平が生まれる結果、フランスの外食産業のように、今度は個別の業界からの陳情合戦になり収拾がつかなくなります。なお、フランスで外食産業の税率が引き下げられてもカフェのコーヒーの値段は引き下げられていないといった記事もありました。これなどは軽減税率を導入しても値段が下がらない悪しき(?)見本でしょう。

④ただし、値段が下がらないことは最初から見越しており、フランスの場合は外食産業の付加価値税率引き下げの代わりに、外食産業での雇用拡大や賃金引き上げなどを通じて、社会への利益還元が求められていました。もちろん、実際に実現できるかどうかは別として、あらかじめそこまでの話が詰められた上での軽減税率だったということです。

 ここで何もフランスの外食産業の付加価値税率引き下げが悪いと言っているわけでありません。売上げに20%近くも税率がかけられてはお店としては死活問題ですから、生き残りをかけて軽減税率を必死で勝ち取るのは当然です。問題とすべきは、こうした陳情合戦を延々と引き起こす税制が正しいのか?という点です。

 翻って我が国の状況ですが、政府・政治家に、それぞれの業者は好き勝手に陳情して軽減税率対象にして欲しいという。その業界が雇用や賃金を増やすなど社会に還元するならともかく、そうすべきであるというコンセンサスすら国民には浸透していない。更には、国民の社会保障費だけは財源がないとしてカットされる状況を鑑みれば、弱いところにしわ寄せがいくのは当然です。不平等な社会の悲惨な行き先は前回お伝えした通りです。格差を放置して良い結果は生み出しません。

 消費税によりそして軽減税率により不平等や不公平が一層拡大していく。こうした税制が本当に正しいのか。社会保障の在り方が正しいのか。毎度のことではありますが、10%増税の前に俯瞰した議論、分析が必要と思われます。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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