コラム

「一億総中流社会」復活を阻む消費税(前編)

2015年10月16日(金)19時40分

 そんなワタクシの杞憂は一蹴されました。安保法案可決のドタバタ劇が冷めやらぬ中、なぜ今「新三本の矢」なのか?との疑問の声も聞かれましたが、発表されたのが9月24日夜。26日からの訪米に間に合わせるためにはギリギリのタイミングだったと言えましょう。まさに、機を見るに敏。国内で公式に触れないまま、米国で言い出せばまたもやアンチ安倍派に、「国内より先に、米国で公約を掲げた」と上げ足を取られかねませんしね。

 さて「新三本の矢」の中身ですが、①希望を生み出す強い経済、②夢を紡ぐ子育て支援、③安心につながる社会保障となっています。旧来の「三本の矢」が①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略であったのに比べると何となく、より国民生活に寄り添った風の内容ではあります。が、皆さんの「モヤモヤ」が晴れないのは、「新三本の矢」がいずれも「結果」として起こる経済の現象面を取り上げただけに過ぎないからでしょう。

 物事には「原因」と「結果」があります。理想的な「結果」を導き出すためには、より根源的な「原因」の部分に迫る必要があり、問題解消のためにどういった政策を採用すべきなのかを考える必要があります。そして、そのための具体策を掲げるのが本来の経済政策であるはず。

 特段、政府を擁護するわけではありませんが「新三本の矢」とともに「一億総活躍社会」と訴えた背景には1960年代から70年代の日本の高度成長期にかけ、特に安定成長期に差し掛かった頃に国民の間に浸透した「一億総中流」を意識したと考えられます。そうした旨をツィッターでも早々にツィートしましたところ、戦時中のスローガンしか想起しなかったという書き込みが...。国民経済低迷の「原因」に迫らないまま、実体経済増強のための具体策を打ち出すこともなく、「結果」として発生する経済現象面の理想だけを取り上げられてもねぇ、と国民側が訝しがるのも致し方なし。

 では国民経済不振の「原因」は何かと言えば、かつては確立されていたはずの「一億総中流」から「中流」が没落してしまったこと。であるならば、経済政策は「中間層経済の増強」あるいは「分厚い中流層の復活」に向けての具体策とせねばなりません。消費税引き下げなどはその最たる対策でもあります。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story