愛知のリコール不正騒動はまだ終わっていない
リコール署名簿を押収する捜査員(2021年、時事通信フォト)
<忘れられたニュースを問う石戸諭氏のコラム。愛知県で河村たかし名古屋市長、高須克弥氏らが起こしたリコール不正の騒動は総括されず、河村氏は愛知政界で新たな「賭け」に出つつある>
愛知県で起きたリコール不正事件は全国的な報道は下火になったものの、今でも地方政界を揺るがしている。事の発端から整理していこう。
インターネット上の右派を中心に、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展『表現の不自由展・その後』の展示内容とそれへの公金の支出を問題視する声が広がった。それを受け、著名医師で右派のインフルエンサーでもある高須克弥氏が呼びかけ人となり、大村秀章・愛知県知事の解職を求めて署名が集められた。フォロワーを多く持つ右派系文化人がそのファン層の賛同を取り付けただけならば、よくあるネット上の署名運動で終わっただろう。
だがこの一件は現実の政治闘争に使われたことで注目を集めることになった。大村氏との対立が伝えられてきた河村たかし・名古屋市長がリコール署名運動を支持して旗振り役を買って出たのだ。運動はやがて「民意の偽造」問題に発展していく。
不正の責任を一様に否定
わずか数カ月で高須氏らは署名運動の停止を発表し、その時点で集まった43万5000筆強を提出したが、リコールに必要な数には遠く及んでいなかった。さらに、その後の調査でこの中に多数の偽造が含まれていることが明らかになったのだ。
リコール運動の事務局長を務め、衆院選への立候補を予定していた男性が署名の集まらない現実に焦り、名古屋市内の広告関連会社に署名書き写しを依頼したという。この一件が報じられると、高須氏や右派系インフルエンサーらは「自分は知らなかった」と繰り返し発信した。
問題はそこからだ。旗振り役だった河村氏も彼らと同様に自分には責任がないことを強調し、大村氏との対立を続ける姿勢を崩さなかった。
大村氏は今年の統一地方選で署名運動に関わった候補者らを破り愛知県知事選で4選を果たしたが、得票数そのものは減った。
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