コラム

群馬・草津町議の「性被害」告発をうのみにした人々が今すべきこと

2023年04月29日(土)15時05分
石戸諭、黒岩信忠、新井祥子、群馬県草津町、性被害

日本外国特派員協会の記者会見で疑惑を否定する黒岩町長(2020年)YOSHIO TSUNODA/AFLO

<忘れられたニュースを問う石戸諭氏のコラム。女性町議が訴えた被害は虚偽の疑いが強いが、彼女を信じて支援した人々の責任は問われずじまい。反省の言語化が社会にとって有益なはずだが...>

群馬県草津町で町長による「性被害」を訴えた同町町議、新井祥子氏をめぐるニュースを覚えているだろうか。事の発端は2019年だった。彼女は黒岩信忠町長から、あろうことか町長室でわいせつ行為を受けたと大々的に告発したのだ。

彼女を支援しようという声が著名な女性運動家、知識人らの間で高まった。町長を批判するデモ隊が草津町を訪れたり、町の対応をめぐって「セカンドレイプの町」という批判がSNSで広がったりするなど、小さな温泉街は前代未聞の騒動に巻き込まれていった。

新井氏は住民投票の結果、町議を失職した。この件はCNNやニューヨーク・タイムズなど海外でも報じられた。一方、町長側は一貫して事実無根を訴えた。新井氏の刑事告訴を受けて捜査を始めた前橋地検も嫌疑不十分で町長を不起訴としたのだが、新井氏の主張はメディア上で冷静に検証されることはほぼなかった。

告発=事実ではないはずが...

3年後、事件は急展開を見せる。町長側の訴えを受け、前橋地検が虚偽告訴と名誉毀損の罪で新井氏を在宅起訴したのだ。つまり、新井氏側の申し立ては不起訴となり終結し、逆に町長側の主張が受け入れられ、刑事事件化したということだ。

もっとも、今年3月の段階で裁判は進行中で、判決は確定していない。だが、町長が実行犯とされた「性被害」の捜査は既に終結しており、他方で新井氏が語っていた被害を信用できる証拠は今でも出てこないままなのは一つの事実だ。

新井氏の公判は粛々と進められ、彼女は法的責任を問われる可能性がある。だが、責任を問われない人々がいる。虚偽が疑われる彼女の主張を検証せずに信用し、運動を展開してきた人々だ。彼らは町長側の反論に全く聞く耳を持たず、告発段階であるにもかかわらず、あたかも被害が事実として確定しているかのように取り上げてきた。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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