コラム

日常を取り戻したい人々を尻目に、インテリ作家は雲の上で自粛中

2020年06月13日(土)12時20分

私はまったく思っていない。資本主義とは日常の生活である。感染症リスクよりもむしろ、私にとって身近に迫っているのは、経済的な危機、生活の危機のほうだ。友人は数百万円単位の仕事を失い、あるカメラマンは「もう90%減ですね」とからっとした口調で言う。

私はと言えば仕事のキャンセルがいくつかあったくらいで、まだマシなほうだが、家にいるばかりではいよいよどうにもならなくなってきた。

私が記憶したいのは、ジョルダーノのような売れっ子文化人の「悠長」な態度のほうだ。

抽象的かつ悲愴感漂う言葉を並べて「ポストコロナが云々」と語り何かを考えた気になるくらいなら、減ってしまった仕事を少しでも取り戻したい。この異常な緊急事態のほうが人間に優しくないのだから、さっさと終われるものは終わり、合理的な感染症対策を施しながらの日常に戻っていきたいと思う。

日常に戻るというのは、今までどおりの経済システムが回るようになってほしいということに尽きるのだから。

<本誌2020年6月2日号掲載>

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プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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