コラム

中国が台湾併合する非軍事シナリオを米シンクタンクが公開......日本が核武装?

2024年06月12日(水)17時23分

このジレンマによって、アメリカなど関係国が取れるオプションは狭まる。逆に言えば、中国はうまくやれば各国の行動を誘導することができる。中国が仕掛けているのは、戦争にいたらない行動の強制=short-of-war coercion course of action(SoWC COA)なのだとレポートでは分析している。軍事侵攻の可能性を高めることで、相手国の行動を強制しようとしている。

中国が狙っているのは下記の4点で、台湾の抵抗できるだけ少なくし、関係各国の支援や協調行動を抑止しようとしている。一貫してアメリカや日本などの政治家やメディアが、軍事侵攻の脅威に過敏に反応することをうまく利用している。また、北朝鮮にも協力させ、ミサイル発射や核実験を行わせてアメリカ軍の配備を抑止しようとする。

1.アメリカと台湾の関係の見直しを行わせる。台湾に対する飴と鞭で、アメリカと台湾の関係の強化が経済的、軍事的、心理的にデメリットを生むことを思い知らせる。

2.台湾行政機関にインフラ維持能力がないことを知らしめ、不信感を煽る。台湾のインフラをサイバー攻撃などの方法で麻痺させ、不信感を煽る。

3.心理戦、認知戦を展開し、抵抗の意思を削ぐ。

4.アメリカ国民と政治家の台湾支援意欲を削ぐ。

作戦はすでに始まっている

2024年5月の総統選後に、この作戦は開始され、台湾が中国と平和協定を結ぶまで続く。最長2028年までと想定される。「cross-Strait peace commission」を創設し、表向きオープンな対話を通じて、事実上台湾を統制できるようになる。

 
 

このタイムラインはきわめて具体的であり、生々しい内容となっている。たとえば、2024年中は習近平の台湾統一に向けた演説、軍事演習やリリースで米中戦争の可能性を煽る。その一方で関係省庁は各国国家元首やビジネスリーダーとの会合を行い、軍事侵攻の可能性を否定し、日本、台湾、アメリカによる扇動のために緊張が高まっていると説明するといったことがくわしく書かれている。

日本もたびたび登場する。たとえば、2026年に入ると、靖国神社を訪れた中国観光客と日本人参拝者都の間で争いが起き、中国人観光客を含む数人が負傷する事件が起きる。加工された動画が中国のSNSで拡散し、世界に広がる。中国観光省は日本国内における「反中感情」の高まりを理由に日本への渡航警告を発令。中国外務省は日本を責め立てる。

つい先日、中国人が靖国神社で落書きして騒ぎになった。このシナリオを彷彿させるような事件だ。中国側がこのシナリオを読んだうえで仕掛けている可能性もある。ただ、靖国神社で騒ぎを起こすというのは中国と日本にとって注目を浴びやすく、影響工作を仕掛けやすいというのは今回の事件でも確認できた。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=ダウ約300ドル安・ナスダ

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story