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アメリカから世界に輸出されるテロリストたち──いま、そこにある「個別の11人」の脅威
ミシガン州議会議事堂で州知事を誘拐しようとしたメンバー(2020年) REUTERS/Seth Herald
<アメリカの白人至上主義過激派グループは、国内のテロの大部分に関わり大きな問題となっているが、カナダ、オーストラリア、米国、ウクライナを始めとするヨーロッパなどでも活動を展開している......>
過去10年間、アメリカでもっとも多くの死亡者を出したテロリストグループをご存じだろうか? イスラム過激派を頭に浮べる人が多いかもしれない。しかし、答えは白人至上主義グループである。イスラム過激派のおよそ3倍が犠牲になっている。
2019年5月、FBIは議会で調査中の約850件の国内テロの大部分が白人至上主義過激派グループに関連いると報告した。バイデン政権も問題の深刻さは認識しており、国内テロ対策の優先課題に白人至上主義グループなどのRMVE(Racially or Ethnically Motivated Violent Extremists)をあげている。しかし、白人至上主義グループ対策予算は、イスラム過激派対策予算に比べるとはるかに少ない。
アメリカで内戦が起こる可能性を指摘したBarbara F. Walter著作『How Civil Wars Start』がベストセラーになっていることも問題の大きさがうかがえる。
「個別の11人」となった白人至上主義過激派グループ
イスラム過激派などのこれまでの過激派と、白人至上主義過激派グループの間には共通点と異なる点がある。共通しているのは暴力の行使、インターネットの活用、プロパガンダの拡散、国境を越えたメンバー募集と資金調達などの活動だが、民族や宗教の重要性、反LGBTQ+など主張でも重なる点は少なくない。
一方、異なるのは組織のあり方だ。イスラム過激派には中心となる人物や目標があるが、白人至上主義過激派グループには必ずしもそれがあるわけではない。また、個人あるいは小規模のグループが多く、それらがゆるい連携を取って活動している。そのためメンバーを含めた活動の実態や全貌が把握しにくく、殲滅することが難しい。中心がないので、中心を潰すこともできず、目標もないので行動の予測も立てづらい。そして個人もしくは少人数なので芋づる式にメンバーを把握することもできない。そして活動内容は多様だ。
たとえば白人至上主義過激派グループは最大でもSNSのフォロワーが10万人を超える程度だ。代表的なグループでもメンバーは100人に満たない。Atomwaffen Division(AWD)は全米20のセルに80名程度のメンバーがおり、Rise Above Movement(RAM)は50名程度、The Baseは45名から70名と推定されている。
武装化や暴力に向かわない穏健派グループも多いし、過激派が穏健になることもある。ただし、その一方で過激なグループも増えている。近年の事件の増加がそれを物語っている。白人至上主義グループの数は多く、過激派はその中のごく一部なのだ。
活動も多彩だが、共通して音楽を重要な要素になっているようだ。歌詞を通じて人種差別、ネオナチ、白人至上主義を宣伝し、勧誘によく利用される。
YouTubeを利用して軍事訓練の映像を広めたり、フェイスブックやツイッターからバンされた後はdiscordやGabを利用している。ゲームも文化的に重要である。4chanや8chanなどの掲示板も利用されている。
変わったところでは、MMA(総合格闘技)の国際的なトーナメントが行われており、RAMは参加している。また、RAMは白人男性に仲間意識とトレーニングを提供するアスレチック・クラブを運用している。
中心のないグループというと、かつて人気を博したSFアニメ「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」に登場する「個別の11人」が彷彿される。
「個別の11人」では、感染しやすい条件を持った電脳(アニメの舞台となった世界では多くの人間がマイクロマシンによって脳をネットに接続している)にウイルスを撒いて過激派にしたてあげていた。しかし、現実の人間はもっと操りやすく、そのような技術なしで容易に白人至上主義過激派になっている。
白人至上主義過激派グループは、実現したい世界などの理念的目標は共有しないが、人種差別、反移民、反LGBTQ+、反中絶、反ワクチンなどの主張やミームを共有する。そのため、感化されやすく操られやすい。言葉やミームで感化させることを考えると、SF小説『虐殺器官』の虐殺文法や『キリストゲーム』の言罠の方が近いかもしれない。問題は現実の世界には攻殻機動隊がいないことである。
有効な対策を打てない状態が続く中、アメリカの白人至上主義過激派グループは活動を世界に広げた。
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