コラム

アメリカから世界に輸出されるテロリストたち──いま、そこにある「個別の11人」の脅威

2022年10月02日(日)17時00分

白人至上主義過激派グループ ウクライナでは両方の陣営に参加

白人至上主義過激派グループは、カナダ、オーストラリア、米国、ウクライナを始めとするヨーロッパなどで活動を展開しており、他国の同様なグループと交流のあることも多い。たとえば、あるグループはヒットラーの誕生日を祝うためにドイツ、ウクライナ、イタリアに渡航し、ヨーロッパに拠点を持つ白人至上主義過激派とつながりを深めている。現在、アメリカの白人至上主義グループは世界の白人至上主義グループの中心的な存在となっている。

白人至上主義過激派グループのひとつのThe Baseは他のグループに軍事訓練を行っており、リーダーはロシアにいる。実はロシアはアメリカを始めとする各国の白人至上主義過激派グループが軍事訓練を受けるいわば聖地になっていた。そこにはロシア国内のPMC(民間軍事会社)や過激派グループの存在がある。

アメリカ国家情報長官室と国防総省はロシア政府は自国の白人至上主義過激派グループ(レポートではRMVE)に対して直接的な支援(資金提供、モノの提供、訓練、指導など)はしていないものの、間接的、受動的な支援(黙認、ネットで煽るなど)を行っていると糾弾した。具体的にはPMCや過激派グループがアメリカなどの白人至上主義グループに軍事訓練などを行っているという指摘だ。

軍事訓練を行っているとして、名前があげられたロシアの3つの過激派グループは、RussianNational Unity(RNU)、Russian Imperial Movement(RIM)、Rusich、The Base(ロシアにリーダーが移住したアメリカ白人至上主義グループ)だ。

RIMは国際的な民族保守運動=World National-Conservative Movement (WNCM)を主宰し、ここを通じてさまざまなグループに軍事訓練を実施している。さらにウクライナ東部やリビヤなどの戦闘に参加し、欧米の極右グループと関係を持っている。ドイツの政党National Democratic Party in Germanyやアメリカの政党Traditionalist Worker's Partyともつながりがある。

RusichはロシアのPMCワーグナーグループと密接な関係があり、RIMはRusichを通じてワーグナーグループとつながっている。

名指しはしていないが、国家情報長官室と国防総省がアメリカの白人至上主義過激派グループに軍事訓練を行っているとしたPMCはワーグナーグループを指すものと考えられる。

アメリカの白人至上主義過激派グループに軍事訓練を行っているのは、ロシアだけではない。ウクライナの極右Azov Movementも軍事訓練を行っている。アメリカの白人至上主義過激派グループにはロシアを支持するグループが多いが、ウクライナを支持するグループもある。Rise Above Movement(RAM)はウクライナを支持しており、The Baseのメンバーがウクライナの民兵組織Right Sectorに参加したこともある。2014年に起きたロシアのクリミア侵攻の際には、アメリカの白人至上主義過激派グループがロシア側とウクライナ側の双方に分かれて戦ったこともある。

なお、今回のロシアのウクライナ侵攻の前の段階では2014年から2019年にかけて50カ国以上から1万7千人以上の戦闘員がウクライナに渡航したが、ウクライナ侵攻後はほとんどがウクライナ出身者か国籍を持つ者であり、外国人の数は多くなく、過激派も少ない。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story