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サウジ対イラン、中東の新たな対立の構図
さらに、近年の中東での危機を特徴づけるサウジアラビアとイランの対立は、2国間だけでなく域内諸問題にも影を落としている。両国の非難の応酬は激しく、突発的な小競り合いから直接的な軍事衝突に発展しかねないとの見方もある。イランに対するサウジアラビアの警戒感は、イラクやシリア、レバノン、イエメンといったサウジ周辺国でイランの影響力が拡大しているとの認識から出ている。近年のサウジ外交はこの極端な脅威認識が背景にあるといっていい。
イランの脅威を喧伝するサウジアラビアから見れば、17年10月に発表されたイラン新戦略で、ドナルド・トランプ米大統領がイラン核合意に対しより強硬な姿勢で臨むことを打ち出したのは頼もしく映ったはずだ。サウジアラビアとイスラエルの接近が噂されるのも同じ流れである。
だが同年12月、この蜜月を台無しにしかねない事態が発生した。トランプが従来の中東政策を大転換させ、エルサレムをイスラエルの首都として公式に承認、米大使館をエルサレムに移転すると発表したのだ。
「アラビア」を国名に冠し、国王が「(メッカとメディナの)二聖モスクの守護者」の称号を用いるサウジアラビアはパレスチナ、特にエルサレム問題の大義を無視できない。実際、サルマン国王はアメリカの決定を厳しく非難する声明を出している。
しかしアメリカを厳しく非難しても、具体的な政策は抑止的に行うというように、パレスチナの大義と現実の反イラン外交の間で綱渡り的政策を取らざるを得ないだろう。
他方イラン、そしてトルコがエルサレム問題で存在感を増したことは間違いない。また中東でアメリカの信頼が失墜しつつあるなか、代わってロシアの影響力が拡大した点も新しい動きとして見ていく必要がある。アメリカのエルサレム首都認定決定に対しては世界中から非難の声が上がっており、既に中東やイスラム諸国では抗議運動が拡大し、死傷者も多数出ている。
ISISやアルカイダなどのテロ組織もアメリカなどを標的とする攻撃を扇動。世界中の米・イスラエル権益に対する脅威が高まっている。またアラブ諸国では米国製品のボイコットを呼び掛ける声が強まっており、こうした動きもボディーブローとして効いてくるはずだ。
経済面で見た場合、大きな変化として、湾岸協力会議(GCC)諸国が財政健全化に向け、18年から(消費税に相当する)付加価値税を導入することが挙げられる。補助金削減なども進められており、GCC国では国民負担が増大することになる。国民の不満を各国がどう処理できるのかがポイントだろう。
また、サウジアラビアの政治・経済上のほとんどの権力を手中に収めたムハンマド・ビン・サルマン皇太子が進める脱石油依存を目指す経済改革「サウジ・ビジョン2030」の行方も注目だ。
18年にはその枠組みで、株式時価総額2兆ドルとも噂される国営石油会社サウジ・アラムコの新規株式公開が予定されている。上場はその5%とされるが、それでも1000億ドル。日本で上場すればそれなりのインパクトになる。
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