コラム

サウジ対イラン、中東の新たな対立の構図

2018年01月30日(火)19時20分

サウジのムハンマド皇太子はイランとどう対峙するのか(写真は昨年11月にリヤドで開催された国際フォーラムの会場に掲示された皇太子の姿) Faisal Nasser-REUTERS

<対テロ戦争は新たな局面に入り、勢力図の変化が次なる争いの火種を生む>

2017年の中東ではいくつもの大きな変化があった。最大の事件は、イラクとシリアにまたがってカリフ国家樹立を宣言していたテロ組織ISIS(自称イスラム国)がモスルとラッカという拠点を失い、勢力を減退させたことだ。

これによって国際社会共通の課題だった対テロ戦争は新しい局面に入っていく。ISISと共に戦っていた外国人戦闘員の移動や帰国で、テロの危険性が世界各地に拡散。新たな対策が必要になってきている。

もちろん外国人戦闘員が消えてもイラクとシリアが平和になるわけではない。イラクでは、クルディスタン地域で独立の是非を問う住民投票が行われ、独立支持派が圧倒的多数を得た。

クルド人の多くはこれで独立への道筋ができると期待した。だが、彼らに好意的だった周辺国や欧米諸国からの支援も得られず、それどころか彼らが事実上統治下に入れていたキルクークや周辺の油田地帯はイラク政府軍に奪還された。つまり、住民投票を行ったことで肝心の独立が遠のいてしまったのだ。

18年5月にはイラクで連邦議会選挙、またクルディスタン地域でも議長選と議会選がある。対立の火種は残ったままだ。

シリアも状況は変わらない。ISISは各地でテロ攻撃を継続している。それまでのバシャル・アサド政権対反アサド武装勢力対ISIS・アルヌスラ戦線(現シリア征服戦線)という三つどもえ、あるいは四つどもえ状態はテロ組織が弱体化しただけで、基本構造は同じだ。

もっとも、ロシアの軍事介入で、アサド政権の優位は確実になった。ロシアの仲介でアサド政権と反アサド武装勢力の間の和平協議も行われているが、反アサド派と彼らを支援するアメリカや湾岸諸国はアサド打倒の旗を降ろしていない。

サウジ経済改革の衝撃度

もう1つの内乱状態の国、イエメンでは首都サヌアを占拠し、正統政府を駆逐したシーア派武装勢力ホーシー派に対し、正統政府の要請でサウジアラビア・アラブ首長国連邦(UAE)を中心とする有志連合が空爆を開始したが、泥沼化している。

人道危機は悪化し感染症や飢餓が各地に蔓延。国際社会は空爆や経済封鎖を行う有志連合を非難するようになった。封鎖は一部解除されたが、状況が改善されたとは言い難い。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story