バイデンとトランプの大きな違い──「機密文書問題」を読み解く
24年大統領選への再選出馬に悪影響? LEAH MILLISーREUTERS
<バイデンが自発的に適切な報告を行ったのに対し、トランプは文書の持ち出しについてごまかし、嘘をつき、法律をないがしろにした>
国家安全保障に関わる組織では、機密文書の扱い方が厳格に定められている。プロの情報機関職員が機密文書の取り扱いを誤れば、キャリアの終わりを覚悟しなくてはならない。私も昔、書類カバンを一瞬なくし、血の気が引いたことがある。
しかし、今回バイデン大統領に持ち上がった機密文書問題──副大統領時代の機密文書を個人事務所や私邸に持ち出していたことが明らかになった──は、アメリカの国家安全保障への影響以上に大きな政治的波紋を既に生み出している。バイデン支持者の間でも、2024年大統領選への再選出馬を目指す上で大きな打撃になったという見方がある。
ガーランド司法長官は、この問題を捜査するための特別検察官を任命した。これは、トランプ前大統領が私邸に機密文書を持ち出していた問題に関して昨年11月に取ったのと同様の措置である。
もっとも、これにより共和党がバイデン政権の「ダブルスタンダード」を批判しなくなるわけがない。共和党は、昨年夏に司法省がトランプの私邸を強制捜査したことを非難し、どうして今回は強制捜査を行わないのかと主張している。下院でもこの問題でバイデン政権を厳しく追及する構えだ。
バイデンとトランプが機密文書の取り扱いを誤ったことは、私に言わせれば意外ではない。政治家が機密文書とそれ以外の文書を一緒くたにするのは日常茶飯事だ。何しろ政治リーダーの元には、毎日何百枚、ことによると何千枚もの文書が届けられる。
情報機関で働いた経験のある人間なら知っているように、このような状況では、簡単に文書が行方不明になる。それを防ぐためには、あらゆる文書を1枚残らず厳格に管理するほかない。CIAや米軍が政治家に機密文書を届ける際、彼らがうっとうしがってもしばしば直接手渡しして、読み終わるまでそこで待機し、すぐに回収して持ち帰るのはそのためだ。
機密文書といっても、実際には政策遂行を脅かすような情報を含んでいない場合も多い。しかし、バイデンとトランプが持ち出した文書の一部は「最高機密」で、トランプが持ち出したものの中には「機密隔離情報(SCI)」の指定を受けている文書も含まれていたという。「SCI」の文書には、「最高機密」以上に機密性の高い情報が記されている。
「最高機密」もしくは「SCI」扱いの文書は、閲覧権限がない者の目に触れれば、情報機関の秘密の情報源や情報収集の方法、持っている能力、分析結果、計画や方針などが漏洩するリスクがある。この場合は、政府の政策遂行が脅かされ、ことによると人命が危うくなりかねない。
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