IPEFはそもそも「TPPの代わり」ではない、中国をにらんだバイデンの真意とは
IPEF発足式に臨んだバイデンと岸田首相、モディ印首相 JONATHAN ERNSTーREUTERS
<TPPに比べると「物足りない」印象のインド太平洋経済枠組み(IPEF)だが、政治的・軍事的な面を含めた中国への対抗戦略として論じられるべきだ>
5月23日、訪日中のバイデン米大統領が立ち上げを発表した新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」は、どのような意味を持つものなのか。その真の意義は、アメリカのアジアへの政治的・軍事的・経済的関与を改めて強調し、中国に対抗することを目指す包括的な戦略の一環と位置付けなければ見えてこない。
IPEFは、アメリカが離脱した貿易協定である「環太平洋経済連携協定(TPP)」の代わりにはなり得ない。純粋に経済的な側面だけを見れば、IPEFの効力はTPPの足元にも及ばない。
TPPは参加国間の関税撤廃を目指す極めて野心的な取り組みであり、この協定により2030年までに世界のGDPが年間4920億ドル押し上げられると期待されていた。しかし、アメリカの有権者の多くは関税の引き下げが雇用を脅かすと反発し、トランプ前大統領は17年1月に就任すると早々に離脱を表明した。
これは歴史的な大失敗だった。そのミスに突け込んだ中国は、TPPとは別に、自国が主導する「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」を発足させた。中国は既にアジアのほぼ全ての国の最大の貿易相手国であり、最大の投資国でもある。RCEPの創設により、中国はアメリカに代わり、アジアの貿易ルールを定めるリーダーになろうとしている。
中国に対抗するため米国内の反発を避ける必要が
トランプと異なり国際主義者であるバイデンは大統領就任以来、アメリカのアジアへの関与を再び強化することに努めてきた。IPEFの創設は、その取り組みの一部とみることができる。
ただし、国内の政治的反発を避けるためには、アメリカへの輸入品に対する関税を減らすTPPのような協定を推進することはできない(アジア諸国にとっては、アメリカへの輸出品の関税が引き下げられることが貿易協定の最大のメリットなのだが)。その代わりに、反汚職、税制、労働者の保護、デジタル・エコノミーに関するルール作り、サプライチェーンの強化、再生可能エネルギーへの移行、質の高いインフラへの投資などのテーマを盛り込んでいる。
こうした点だけ見ると、IPEFは物足りなく感じられるかもしれない。しかし、バイデンのアジア戦略全体に目を向けると、その重要性が際立ってくる。バイデン政権では、アジアでのアメリカの影響力を強化し、地域のリーダーとしての座を中国に奪われることを阻止するべく、政治、経済、軍事の面でさまざまな行動を取ってきた。
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