標的はバルト3国、「ユーラシア主義」から見えるプーチンの次の一手
欧米の専門家は無意識に、西洋流の規範主義的な国際関係モデルに当てはめてプーチンの行動を解釈しようとしている。そのモデルでは、世界の国々のリーダーが基本的価値観を共有し、妥協し合いながら国際秩序を維持するものとされてきた。
この「ウェストファリア体制」と呼ばれる国際体制は、近世ヨーロッパで100年間続いた宗教戦争を終わらせた1648年のウェストファリア条約で確立されたもので、国家主権の尊重を核に据えている。
第2次大戦後にアメリカ主導で築かれた国際秩序も、この土台の上にある。
プーチンにしてみれば、こうした理念は、愚か者の青くさいたわ言か、そうでなければ、アメリカの帝国主義的な野望に好都合な国際システムを正当化する狡猾なプロパガンダにほかならない。
では、プーチンはどのような戦略を追求しているのか。その戦略は、4つの大きな要素で構成されている。
第1に、プーチンは国際関係をゼロサムゲームと見なしていて、ある国が利益を得るためにはほかの国が犠牲を払わなくてはならないと考えている。この考え方によれば、互いの利益のために妥協しようと主張する政治指導者は、嘘つきか、愚か者だということになる。
第2に、ロシアの影響力圏を西方に拡大させたいと考えている。この一帯に位置する国々は、1991年にソ連が崩壊するまではロシアの支配下にあった。
第3に、NATOの弱体化を一貫して目指してきた。NATOはロシアの存立を危機にさらす脅威であり、アメリカがヨーロッパを牛耳る口実だと考えているためだ。
プーチンの頭の中では、ヨーロッパの旧共産圏諸国で2000年代に相次いだ「カラー革命」も、2011年にロシア下院選への抗議から起きた反政府運動も、プーチン体制打倒を狙う米CIAの策謀ということになっている。
それに対抗するために、プーチンはロシアの情報機関を動かして、NATO諸国の選挙を混乱させることを目的に大々的な秘密工作を行ってきた。加えて、米欧の間にくさびを打ち込むことも目指している。
第4に、ロシアを世界の大国の座に復帰させたいと考えている。そのために、ロシアの影響力を世界に拡大させると同時に、アメリカの力をそごうとしてきた。
では今後は、どのような展開が待っているのか。
ロシアのウクライナ侵攻により、ロシアとNATOの緊張が大幅に高まることは避けられないが、両者とも戦火を交えることは望んでいない。その点は、双方が繰り返し述べているとおりだ。
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