コラム

標的はバルト3国、「ユーラシア主義」から見えるプーチンの次の一手

2022年03月01日(火)16時50分

220308P18_CAL_04v2.jpg

2月24日にホワイトハウスでウクライナ問題について演説するバイデン LEAH MILLIS-REUTERS

二極化の時代が戻ってきた

一方、自国の近隣地域での覇権を取り戻し、NATOを西方に押し戻したいというプーチンの戦略上の目標はあくまでも変わらない。

しかし、今回のウクライナ侵攻は、その点では逆効果になりつつある。ウクライナはロシアの支配下に入るかもしれないが、NATOはこれを機に存在意義を再確認し、東欧諸国(ポーランド、バルト3国、ルーマニア)における兵力を増強させている。

それでも、プーチンは今後、バルト3国への圧力を強めるかもしれない。

ロシアの飛び地領であるカリーニングラード(ポーランドとリトアニアに挟まれている)の脆弱性をアピールしたり、これらの諸国が国内のロシア系住民を不当に扱っていると非難したりして、秘密工作によりこれらの国々の不安定化を図る可能性はある。

1930年代のナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーさながらの主張だ。

しかし、もしプーチンがバルト3国で緊張を高めれば、ロシアとNATOの間の戦争が――第3次大戦が――始まる危険性が今以上に高まる。

ジョー・バイデン米大統領とNATOの指導者たちは、NATO加盟国であるバルト3国を守るために戦うことを明言している。

この先の展開は、プーチン自身も見通せていないだろう。

少なくともはっきりしているのは、プーチンと欧米の世界観や戦略目標が相いれないものだということだ。ヨーロッパが大規模な戦争の戦場になるリスクは、1945年に第2次大戦が終わって以降で最も高くなっている。

プーチンのウクライナ侵攻により、1991年のソ連崩壊後に形づくられた国際秩序は崩れ去った。

世界は、再び20世紀後半の冷戦期のような二極化の時代に戻ろうとしている。2つの勢力が互いの主張を拒絶もしくは誤解する世界で、私たちはまた生きることになるのだ。

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story