コラム

標的はバルト3国、「ユーラシア主義」から見えるプーチンの次の一手

2022年03月01日(火)16時50分

220308P18_CAL_01v2.jpg

首都キエフのウクライナ兵(2月25日) GLEB GARANICH-REUTERS

さらにアメリカを含むNATO諸国への揺さぶり、アメリカとヨーロッパの離間、アメリカの世界的覇権の弱体化を図る秘密工作も続けるだろう。

ウクライナを蹂躙するロシアのミサイルと戦車は、ヨーロッパで冷戦が公然と復活した証拠だ。

数十年前、私はヨーロッパとロシアの将来について、あるロシア人と議論していたときに、ロシアは文化的に「ヨーロッパ」なのかと尋ねた。

当時のロシアは共産党支配から脱却した直後で、ようやくこれで個人主義、民主主義、自由市場、法の支配といった西側の規範を受け入れられる、と私はやや素朴に考えていた。

だが、その相手は言った。

「もちろん、私たちはヨーロッパ人だ。同時にアジア人でもある」

ロシアはロシアであり、欧米の規範とは相いれない。

プーチンは、欧米の個人主義を敵視する哲学の信奉者だ。専門家は、このロシア特有の反欧米的哲学を「ユーラシア主義」と呼ぶ。

ロシアの魂はユーラシア大陸の大草原とフン族やモンゴル族の武勇に由来するという思想であり、個人を国家の大義に従属させる点に特徴がある。ピョートル大帝の啓蒙主義や欧米の個人主義、さらには共産主義をも否定し、それらがロシアを破滅させたという立場を取る。

プーチンは「ユーラシア」ナショナリズムの熱烈な信奉者であり、欧米の規範を見下している。

2009年には、汎スラブ主義のナショナリスト=ファシストだった哲学者イワン・イリインの遺体をスイスの墓からロシアに移した。

イリインは、自由とは社会における自分の居場所を知ることであり、民主主義は単なる儀式であり、国家の指導者は英雄であり、事実には何の価値もないと主張した人物だった。1922年に共産主義革命後のロシアを追放され、1954年にスイスで客死した。

プーチンはその遺体を祖国に運び、新しい墓に花をささげた。

プーチンは、このイリイン流の世界観を公然と主張し続けている。

この観点からすれば、今回のウクライナ侵攻は国防措置であり、ユーラシア国家の定めを果たす行動だ。プーチンが権力の座にある限り、何を狙うのかは明らかだろう。

一貫して追求してきた戦略

欧米の国際問題専門家たちは、プーチンを場当たり主義者と見なし、一連の攻撃的な行動で得られる勝利は長続きしないと述べることが多い。

しかし、このような論者が見落としていることがある。それは、プーチンが1つの世界観に基づき、戦略上の目標を見据えて外交を行ってきたという事実だ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story