コラム

サウジ当局は9.11テロに関与したのか、20年目の捜査資料が語ること

2021年09月21日(火)18時16分
バイデン夫妻とオバマ夫妻

犠牲者追悼式典に出席したバイデン夫妻とオバマ夫妻ら CHIP SOMODEVILLAーPOOLーREUTERS

<同時多発テロから20周年。開示されたFBIの資料が示すサウジ治安機関とアルカイダの関係についての「状況証拠」>

アメリカの大統領は常に前任者の問題に巻き込まれるのを避けたいと願うものだ。バイデン大統領は就任に当たり、20年に及ぶ「テロとの戦い」に終止符を打つ決意を固めていた。

米軍は8月30日、多くの批判にもかかわらずアフガニスタンからの撤退を完了。そして12日後の9月11日、アメリカはウサマ・ビンラディン率いる国際テロ組織アルカイダによる9.11同時多発テロ事件の発生から20周年を迎えた。

この日の夜、サウジアラビア政府がこの事件の実行犯を支援した可能性に関するFBIの機密捜査資料が開示された。バイデンは一部の犠牲者遺族の要求を受けて、この資料の開示を約束していた。

しかし、情報活動の世界ではよくあることだが、開示された機密情報の内容は不満の残るものだった。この資料は、アメリカのテロ対策当局が20年前から主張してきたことを追認しただけだったからだ。

アメリカで活動するサウジの情報部員らしき人物3人が事件の前年、ハイジャック犯2人と繰り返し接触していた──これ自体は憂慮すべきことだが、サウジ政府がテロに関与していた、あるいは計画を事前に知っていたことを示す直接的な証拠はない。

サウジによる世界史上最大の宣伝工作

実際、サウジの関与については曖昧な部分が残っている。過去40年間のイスラム過激派の台頭に、サウジ政府が多くの責任を負っていることは間違いない。1979年、聖地メッカの大モスク占拠事件とイラン革命に危機感を募らせたサウジは、厳格なイスラム教ワッハーブ派との結び付きを強化した。80年からの20年間にサウジがワッハーブ派の布教に費やした金額は750億ドル。世界史上最大の宣伝工作だ。

その結果、ワッハーブ派に触発された過激な不寛容主義が何百万人ものイスラム教徒の間に広まり、何千人ものイスラム教徒が宗教上の義務としてのテロリズム、つまり暴力的なジハード(聖戦)を実行するようになった。多くのサウジ人も異教徒の欧米諸国や、自国を含むイスラム圏の世俗的な政府に対する敵意を強めた。

9.11テロのハイジャック犯19人のうち、15人がサウジ国籍だった。アメリカの同盟国であるサウジ政府がテロリストを支援していたのではないかという報道は、事件発生の直後からあった。

こうした情報から、事件の被害者約3000人のうちの一部の遺族は2003年、サウジ当局がハイジャック犯を支援したと主張。王室を含む関係者の処罰と彼らによる補償を求めてサウジ政府を提訴した。もちろん、サウジ政府はこの主張を全面的に否定。ビンラディンはアメリカよりもサウジ政府に敵意を持っていたことを指摘した。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story