コラム

「息子が感染し、娘は職を失った」元CIA工作員のコロナ在宅日記

2020年05月20日(水)15時40分

「ゴーストタウン」と化したマサチューセッツ州ボストンの街中 BRIAN SNYDER-REUTERS

<かつてはマスクをするアジア人を軟弱と決め付けていたが、今やマスク着用が義務付けられ、理髪店にも行けず、さながら西部劇の無法者のような風体で自宅籠もりしている>

無精になったわけではない。だが、こんなに髪を伸ばしたのは学生時代(1970年代のことだ)以来だ。どうせ理髪店は開いてないし、開いていても行く気はしない。危ない橋は渡りたくない。

新型コロナウイルスとの戦いが始まると米マサチューセッツ州のわが街はゴーストタウンと化し、私たちの風体は昔の西部劇に出てくる無法者みたいになった。病気でもないのにマスクをしているアジア人を、かつて私たちは軟弱と決め付けていたが、今は(少なくとも私の住む州では)マスク着用が義務付けられている。私も緑色の物を2枚持っている。互いに2メートルの距離を保つのも義務。政府指定の「必要不可欠」な店以外は休業中で、公園やビーチは閉鎖中。それでもこの州(人口690万)だけで、この2カ月に5500人ほどが新型コロナの犠牲になったという(実際はその倍くらいだろう)。

この60日間、私は自分の家と納屋以外の建物に足を踏み入れていない。この間に街へ出たのは1度だけ。感染者として在宅隔離を強いられている息子(同棲中の恋人も仲良く感染している)を見舞いに行ったのだが、路上から窓越しに言葉を交わしただけで帰ってきた。

この2人は3月半ばに感染したらしく、指や足先の発疹や息苦しさなどの症状が出た。米国内ではかなり早い時期の感染例とされるが、検査は2度受けて2度とも陰性だった。それでも医師は感染の診断を下した。不快な症状はもう6週間も続いているが、幸いにして、まあ症状は軽い。こういう経過はかなり特異なので、2人はテレビの取材も受けた。

カリフォルニア州在住の娘は、このウイルスのせいで職を失った。もう1人の息子はニューヨークのアパート暮らしで在宅勤務を続けている。ただしルームメイトは早々に逃げ出して実家に帰ったという。息子のアパートの近くにある病院には大型冷蔵車が横付けされ、遺体の仮の宿となっている。

妻も私も、まだ巣立っていない下の息子も在宅で仕事をしている。私が外に出るのは、体重65キロもある大型犬のモホークに散歩をさせるときだけ。近くにある森の中を歩くのだが、できるだけ人のいないルートを選んでいる。人懐こいモホークは大きな体で誰にでも走り寄るからだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story