「息子が感染し、娘は職を失った」元CIA工作員のコロナ在宅日記
「ゴーストタウン」と化したマサチューセッツ州ボストンの街中 BRIAN SNYDER-REUTERS
<かつてはマスクをするアジア人を軟弱と決め付けていたが、今やマスク着用が義務付けられ、理髪店にも行けず、さながら西部劇の無法者のような風体で自宅籠もりしている>
無精になったわけではない。だが、こんなに髪を伸ばしたのは学生時代(1970年代のことだ)以来だ。どうせ理髪店は開いてないし、開いていても行く気はしない。危ない橋は渡りたくない。
新型コロナウイルスとの戦いが始まると米マサチューセッツ州のわが街はゴーストタウンと化し、私たちの風体は昔の西部劇に出てくる無法者みたいになった。病気でもないのにマスクをしているアジア人を、かつて私たちは軟弱と決め付けていたが、今は(少なくとも私の住む州では)マスク着用が義務付けられている。私も緑色の物を2枚持っている。互いに2メートルの距離を保つのも義務。政府指定の「必要不可欠」な店以外は休業中で、公園やビーチは閉鎖中。それでもこの州(人口690万)だけで、この2カ月に5500人ほどが新型コロナの犠牲になったという(実際はその倍くらいだろう)。
この60日間、私は自分の家と納屋以外の建物に足を踏み入れていない。この間に街へ出たのは1度だけ。感染者として在宅隔離を強いられている息子(同棲中の恋人も仲良く感染している)を見舞いに行ったのだが、路上から窓越しに言葉を交わしただけで帰ってきた。
この2人は3月半ばに感染したらしく、指や足先の発疹や息苦しさなどの症状が出た。米国内ではかなり早い時期の感染例とされるが、検査は2度受けて2度とも陰性だった。それでも医師は感染の診断を下した。不快な症状はもう6週間も続いているが、幸いにして、まあ症状は軽い。こういう経過はかなり特異なので、2人はテレビの取材も受けた。
カリフォルニア州在住の娘は、このウイルスのせいで職を失った。もう1人の息子はニューヨークのアパート暮らしで在宅勤務を続けている。ただしルームメイトは早々に逃げ出して実家に帰ったという。息子のアパートの近くにある病院には大型冷蔵車が横付けされ、遺体の仮の宿となっている。
妻も私も、まだ巣立っていない下の息子も在宅で仕事をしている。私が外に出るのは、体重65キロもある大型犬のモホークに散歩をさせるときだけ。近くにある森の中を歩くのだが、できるだけ人のいないルートを選んでいる。人懐こいモホークは大きな体で誰にでも走り寄るからだ。
リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと 2024.10.22
戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイスラエルを待つ落とし穴 2024.10.08
カマラ・ハリスの大統領選討論会「圧勝」が、もはや無意味な理由 2024.09.25
共和党バンスvs民主党ウォルズは、あまりに対照的な副大統領候補対決 2024.09.03
全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く 2024.08.20
大統領への道「勝負の100日間」ハリスの物語と夢のパワーがアメリカの命運を決める 2024.08.01
追い詰められた民主党が苦しむ「バイデン降ろし」のジレンマ 2024.07.20