元CIA工作員が占う2020年の世界――危険な「伝統回帰」が戦後秩序を崩壊させる
最近、驚くことがあった。聡明な中国人留学生と話していると、30年前にパリで会った極右政治家の話に似ていることに気付いたのだ。この留学生は言った。中国もアジア諸国も、変化しつつある自国の社会と新たな国際秩序を形成する上で、アジア主義を唱えた「北一輝」に注目すべきだと。私は呆然とした。
北一輝が植民地主義に抱いた敵意は、端的に言えば強烈な人種(民族)主義に基づくものだ。急激な経済成長や、異国の文化を持ち込んで自国のアイデンティティーを傷つける外国人への怒り。調和と社会の一体性への希求。
これらは第二次大戦の恐ろしい教訓があるにもかかわらず、1人のヨーロッパ人を極右に走らせ、その30年後、進取の気性に富む中国人留学生を北一輝(日本の軍国主義に加担した人物だ)に向かわせた。
こうした気持ちは、トランプの唱える「移民排斥」の主張や、異国の影響を排除したいイギリスの頑迷なEU離脱派、習近平の全体主義的民族主義と大差ない。
2020年に政治や経済に何が起きるにせよ、中国の台頭や世界の人口増加、高齢化、大規模な人口移動、急速に進む技術変化と経済発展、そして環境への負荷は、ポピュリスト大統領であるトランプが譲らない孤立主義と相まって、第二次大戦後の規範となってきた世界と経済の秩序を侵食し続けるだろう。
1945年以降で最も危険な変化の時代が私たちを待っている。
<2019年12月31日/2020年1月7日号掲載>
2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。
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