元CIA工作員が占う2020年の世界――危険な「伝統回帰」が戦後秩序を崩壊させる
あの国では、さらに人口の増加に起因する社会的・政治的なストレスに隣国イラクでの戦争が重なり、国内で地方部から都市部への大規模な人口移動が起き、社会の崩壊と内戦を招いた。人口のほぼ半数が難民化し、中東の近隣諸国を圧迫し、膨大な数の国民がヨーロッパに流入した。
2020年には人口と環境の変化がもたらすストレスが、機能不全寸前の国々(イエメンやスーダン、マリ、中米の一部など)を直撃するだろう。技術革新はそれなりの恩恵をもたらすが、一方で先進諸国に社会的なストレスをもたらす。アメリカの伝統的な工業地帯は経済の衰退に見舞われ、中国沿海部の大都市は人口減と技術面の壁にぶつかり、ベネチアは水位の上昇に、南欧諸国は移民の流入に苦しみ続ける。
経済・ポピュリズム・伝統回帰
人口と技術、そして温暖化という3つのトレンドは今後も世界中の経済に深刻な影響を及ぼす。アメリカ経済は堅調に見えるが、過去30年間の変化に対応できていない。
労働者の賃金はほとんど増えず、雇用が増えない理由の80%は(他国との競争ではなく)技術革新の影響とされる。そして人口のストレスは日本に「失われた10年」をもたらし、温暖化によるストレスは世界各地に洪水や山火事の被害をもたらしている。
その結果として、政治の世界では手に負えないポピュリズムが台頭した。文化的な変化を嫌い、異民族を排除したがるこうした論理は、第二次大戦に直結する1930年代の政治状況と酷似している。そこから生まれたのがアメリカのトランプ政権であり、イギリスにおけるEU離脱派の勝利であり、ハンガリーやポーランド、オーストリアにおける極右政党の進出だ。
これは「伝統回帰」なのかもしれない。社会の変化や技術の進歩に対する本能的な敵意は、100年以上の間に保守的なイスラム主義や反米主義を育て、近代的な社会・経済の変化への反発を生み出してきた。
皮肉なものでこうした流れが、およそ無関係に思える勢力(ムスリム同胞団やロシアのナショナリスト、今日の反グローバリズム運動など)を結束させ、現代の技術・経済・社会の変化の大半を拒み、過去200年以上にわたって欧米とその進歩を特徴付けてきたリベラルな価値観の破壊に向かわせている。
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