元CIA工作員が占う2020年の世界――危険な「伝統回帰」が戦後秩序を崩壊させる
その他の地域でも、人口動態のストレスが国民国家と既存の国際秩序を脅かしている。大規模な人の移動は20年以降も中東から欧州へ、中米から北米へ、アフリカから欧州へ、中国の内陸部から沿海部の大都市へという具合に続く。世界中が人口の大移動に振り回される。
人口大国の中国は、この先も何十年か、化石燃料を燃やし続けるしかない。だからこそ中東に軍事拠点を築いている(17年にはジブチに初の国外基地を設けた)。アフリカ大陸の東海岸に中国海軍の艦艇が出没するのは、1405年に明の武将の鄭和が「南洋遠征」をして以来の事態だ。一方で中東におけるアメリカの軍事的存在感は薄れつつある。
私は車に乗ると、よく先祖の人が私の年頃だった当時の景色を想像しながらハンドルを握る。例えば、祖父なら1948年ごろだ。周りの景色を眺め、当時は存在しなかったはずのものを視界から消してみる。当然、ほとんどが消し去られる。祖父の時代には、近代的な建物も道路も電線もハイテク製品もなかった。
技術革新の加速度的な進展は現代の栄光のしるしだ。地球の反対側にいる配偶者と毎日無料でビデオ電話ができる。パリであの排外主義者と会った80年代当時、私は年に1度だけアメリカにいる家族と話したものだ。郵便局の行列に1時間並んで、1分の通話に5ドルほどかかった。今では途上国でも住民の3分の2以上がスマホを持っていたりする。
しかし先進諸国の社会は技術革新のせいで大混乱に陥っている。人工知能(AI)により、事務系の仕事は今後15年で半分に減る可能性がある。アメリカには、過去30年の技術革新とグローバル化で町の産業が丸ごと崩壊した例がいくつもある。技術革新は何十年も前から肉体労働者を痛めつけてきた。これからは頭脳労働者がやられる番だ。
人口の増加と技術の進歩が重なったところに生じた実存的な問題。それが地球温暖化だ。20年ほど前、筆者を含むCIAの要員とNASAや米海洋大気局(NOAA)の科学者は、地球温暖化の脅威について政府に繰り返し警告した。
しかし当時のジョージ・W・ブッシュ政権は、私たちが地球温暖化に言及することを禁じた。科学的な知見に基づく私たちの警告も、彼らには左翼的偏向と映ったのだろう。温暖化の否定は共和党の伝統であり、トランプ政権はそれを忠実に受け継いでいる。
今の世界は温暖化の影響で水に漬かり、あるいは山火事で焼き払われつつある。20年前に予測した最悪のシナリオよりも深刻だ。2020年以降はどうなるのか。アメリカの情報機関は、シリアの混乱を招いた大きな要因として地球温暖化による干ばつの長期化を指摘している。
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