北方領土「2島返還」が動き始めた理由
11月14日、訪問先のシンガポールで会談したプーチン(右)と安倍 Alexei Druzhinin-Kremlin-Sputnik-REUTERS
<安倍とプーチンの大胆な政治決断の背景には中国の台頭という東アジアの地政学的変化がある>
少し皮肉めいた話だ。ドナルド・トランプ米大統領がもたらした破壊と混乱。習近平(シー・チンピン)国家主席の下でアジアの覇権を目指す中国の歴史的台頭。そして、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と日本の安倍晋三首相の強い決意を秘めた外交手腕。どうやら、この3つの組み合わせがアジアの地政学的状況に歴史的変化をもたらすことになりそうだ。
そして安倍は、いわゆる「北方領土」4島のうち少なくとも2島を取り戻し、残る2島へのアクセスを大幅に強化することになる。安倍の決断と自らチャンスをつくり出し、それをつかむ能力によって、日本は第二次大戦で味わった恥辱のかなりの部分をすすぐことが可能になるだろう。
ロシアとの北方領土交渉で必ずや突破口を開くという安倍の決意は確かに目を見張るものがある。しかし、この交渉で少なくとも一定の成果が見えてきた理由は、アジア太平洋地域の地政学的環境が変化したからだ。
中国の国力増大と、強引とも思える南シナ海への進出。唯一の超大国の名を汚し続けるアメリカの行動と、トランプの孤立主義、日本の同盟国としての信頼性の欠如。ロシアと日本は以上の要因から、台頭する中国への対抗手段として互いに手を組もうとした。
プーチンは、中国との2国間関係の強化に多大な努力を払ってきた。大型のエネルギー・投資契約を結び、合同の軍事演習まで実施した(アメリカ人はその目的を対米連合と誤解しがちだが)。安倍も、気まぐれになったアメリカとの関係強化を図る一方で、中国との関係改善に懸命に取り組んできた。
プーチン「変心」の裏事情
だがロシアにとって、対日交渉には特別な意味がある。北方領土交渉がまとまれば、ほとんど無価値な島々(近海には好漁場や豊富な鉱物資源がありそうだが)と引き換えに、日本から1000億円とも言われるロシア極東の経済開発援助と、国営エネルギー企業ガスプロムの液化天然ガス開発プロジェクトへの8億ユーロの融資を引き出せる可能性がある。
日本はもちろん第二次大戦終結から70数年ぶりに島を取り戻せる。安倍は「金と領土の交換」の受け入れをロシアに促す追加の呼び水として、日本は取り戻した領土に米軍事基地を造らせないと約束したようだ。
70年以上続く膠着状態の打開を阻んできた障害はまだ消えていない。国家の威信、歴史、地理、島の軍事的利用価値と戦略的・地政学的有用性は、どちらにとっても依然として重要だ。
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