コラム

オキナワの現状を地政学で読み解く

2018年09月13日(木)16時00分

沖縄県民の間には長らく、駐留米軍の存在に植民地支配に対する怒りにも似た感情が存在する(普天間基地)ISSEI KATO-REUTERS

<「反基地」を掲げた翁長の死に伴う知事選が実施されるが、アジア全体の文脈では米軍基地の意義は増す一方>

沖縄では9月30日、膵臓癌で急逝した翁長雄志知事の後任を選ぶ選挙が行われる。知事選の結果は、この地における米軍のプレゼンスの未来を左右するはずだ。

翁長は米軍基地への反対姿勢を打ち出して知事当選を果たし、米軍は「良き隣人」でないと批判したこともある。その翁長の突然の死によって、沖縄は米軍基地への反対姿勢を見直すことになるかもしれない。

県知事選の主要候補は、翁長が後継者として名前を挙げた玉城デニーと自民党などが推薦する佐喜真淳だ。2人はどちらも、在日米軍の権限などを規定する日米地位協定の改定を公約に掲げている。

しかし誰が次の知事になるのであれ、沖縄の運命は地理的条件によって形作られる。これこそ、県内に約5万人の米軍関係者と33の米軍施設が存在する現状に否定的な感情を抱く県民にとって不幸な現実だ。

九州の南西約700キロに位置する沖縄本島は、その南西にある台湾からも、西にある中国本土からも同程度の距離にある。日本の海上自衛隊や米海軍の視点から見れば、東シナ海、領有権争いが激化する南シナ海に容易にアクセスできる格好の地点だ。さらにはベーリング海やオホーツク海にもつながる。

中国が台頭するなか、アジアではパックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)という戦後体制が衰退しつつある。沖縄県知事選の結果はどうであれ、日米双方にとって、沖縄での米軍駐留継続が持つ意義は戦後のどの時期にも増して大きい。

一方、沖縄県民の目に映る現実は往々にして異なる。県民の間ではこの数十年間、駐留米軍の存在に、植民地支配に対する怒りにも似た感情を抱く人の割合が半数を占めている。

第二次大戦末期に起きた沖縄戦では、県民の4分の1に相当する12万2000人以上が犠牲になった。終戦後はアメリカの統治下に置かれ、沖縄返還が実現したのは72年のことだ。

中朝ロシアに囲まれて

だが駐留米軍はその後も、60年に調印・発効した日米地位協定によって、刑事裁判権などの広範囲で治外法権を認められている。歴史を振り返れば、外国人が地元住民を従属させる構図は清朝末期に起きた義和団事件をはじめ、世界各地で列強の支配への抵抗を引き起こした要因になってきた。

米軍人・軍属による性犯罪事件も、沖縄県民の間で駐留米軍への強烈な反感を生み出し、環境保護派や反植民地主義、反本土派、平和活動家などの各勢力を「反基地」で結束させている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story