オキナワの現状を地政学で読み解く
政治や文化に心情が絡めば、ファクトは置き去りにされがちだ。沖縄県民1万人当たりの犯罪件数が69.7件である一方、米軍人・軍属では27.4件という統計もある。米軍人・軍属による犯罪件数は72年の沖縄返還以降で最低水準にある。それでも、アメリカに親しみを感じない県民の割合は最近になって急増し、40%に達している。
反基地運動には、本土に対する反感という側面もある。もともと琉球人、そして沖縄人には、必ずしも「日本人意識」が根付いているとは限らない。明治時代に強制統合されたこの地は、1945年まで帝国主義的な支配の下に置かれ続けた。沖縄県民にとって米軍基地に反対するのは、かつての「主君」である日本に対して文化的・歴史的独立性を表明する方法でもある。
しかし今や、日米の前には中国という脅威が立ちはだかり、北朝鮮のミサイルは日本上空を通過するばかりかアメリカ本土にも届きかねない。軍事大国に返り咲き、北極圏の海氷融解で航路を拡大するロシアへの疑念も増している。米海兵隊員3万人以上と数十の航空機・艦艇を即時展開する能力を持つ沖縄の米軍基地の存在は、アジアにおける戦略的バランスを日米に有利な形にしてくれる。
同時に、米軍の駐留継続はアメリカによる日本の防衛という概念を具現化し、日本の施政下の領域内で「いずれか一方」が武力攻撃を受けた場合、両国が協力して防衛に当たるとの条文がある日米安全保障条約を活性化する。中国が南シナ海の人工島の軍事拠点化や海軍増強で外洋海軍化を進めるなか、日本政府にとってこの条文が持つ魅力は増している。
19世紀末のハワイと同じ
従属的立場を脱したいと願う沖縄県民の心情には共感するし、かつての日本による支配や沖縄戦、県内に陣取る米軍に憤慨するのも理解できる。とはいえこうした感情は、大国の戦略的要請とされるものの前ではかき消されるのが常。国際関係の不透明度が増している現状では、なおさらだ。
アメリカは1890年代、世界的役割を担うことを求め始め、国際社会で影響力を示すべく海軍力の増強を進めていた。給炭港として目を付けたのが、広大な太平洋の中でも戦略的に最も重要な位置にあり、天然の良港を擁していたハワイだ。
ハワイ王国の女王リリウオカラニと住民の半数はアメリカの動きに反発した(住民の残りの半数は、アメリカへの併合がもたらす経済的利益に心を引かれていた。今日の沖縄でも、米軍駐留の是非についてはほぼ同じ構図が存在する)。
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