日本が無視できない、トルコショックが世界に波及する可能性
2国間の摩擦が世界に波及
外交的にも戦略的にも米・トルコ間の対立は深刻なリスクをはらむ。しかもリスクは、トルコよりもアメリカにとって大きいかもしれない。
今年6月の大統領再選後のエルドアンは外交面でも独自色を強めている。NATO加盟国なのにロシア製の防空システムS400の導入を決めた。こうなると、アメリカの最新鋭戦闘機F35の先端技術がロシアに漏洩しかねない。トルコはF35を100機購入する予定だったが、アメリカは売却手続きを停止した。F35がロシア製防空システムの監視下に置かれては困るからだ。
トルコとアメリカはシリア内戦とクルド人問題をめぐっても対立を深めている。このままだと、米軍とNATO軍はトルコ南部のインジルリク空軍基地を使えなくなるかもしれない。その一方、トルコはシリア内戦で最もアメリカに協力的なクルド人勢力を攻撃している(トルコ国内には多数のクルド系住民がいるが、政府は彼らの独立運動を力で抑え込んでいる)。
NATO陣営にとって、トルコは南方防衛の要衝だ。宿敵ロシアにイスタンブールを与えるわけにはいかないし、地中海やアラビア海に面した(冬季に凍結しない)不凍港を使わせるわけにもいかないからだ。
いくらエルドアンがアメリカに腹を立てても、欧米との同盟関係を捨ててロシアと組む可能性は低い。だが高率関税などでアメリカとの対立が一段と深まれば、トルコはますます自国の利益を最優先するようになり、ロシアやイランに接近するだろう。
一方でトランプ政権はどうか。アメリカが第二次大戦後に一貫して築いてきたトルコとの(そしてEU、NATO、中東諸国との)関係をぶち壊す方向へ着実に進んでいる。トルコのような同盟国に(たとえ一定の理由があるにせよ)懲罰的な関税を課すようでは、親米派の諸国もアメリカ政治の安定性と一貫性への疑念を抱き、アメリカだけには頼れないと考え始める。
この政権は一国主義で、同盟関係を軽視している。だから同盟国トルコにも高率関税を課した。これは国際秩序を不安定化する。そして中国やロシア、あるいはイランが、今までアメリカと強固な同盟関係を築いてきたトルコのような国々に触手を伸ばし、2国間関係の強化に動くだろう。
1920年代にオーストラリアとニュージーランドの農家を破綻させた銀行は、まさかそれが世界恐慌の端緒になるとは思いもしなかった。今日もそうなるかもしれない。アメリカとトルコの指導者には、彼らよりも賢明であってほしい。だがアメリカの大統領は気が短くて強引で無能なナショナリスト。トルコの大統領は怒りっぽくて経済政策を宗教と娘婿に委ねるナショナリストだ。両国の対立が丸く収まる気配はない。
※本誌9/4号(8/28発売)「日本が無視できない 新興国経済危機」特集はこちらからお買い求めになれます。

アマゾンに飛びます
2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら
トランプの「残酷で危うい国際システム」が始まる 2025.03.29
日本の石破首相がトランプに主張すべきこと 2025.03.12
トランプ政権がもくろむCIAの大リストラ、次に起きることは? 2025.02.26
トランプが命じた「出生地主義の廃止」には、思わぬ悪影響が潜んでいる 2025.01.31