コラム

トランプ「スパイ」説を追え

2017年12月05日(火)16時30分

あり得ない400回の偶然

これまで分かっているだけでも、過去15年間にトランプの家族または側近は、ロシアの工作員または工作員と疑われる人物と計400回以上接触している。ロシアのオリガルヒのカネ、つまりロシアの情報機関の色の付いたカネが、トランプのビジネスに流れ込んだ証拠もある。

こうした動きは、今やアメリカの情報機関だけでなくメディアも把握している。例えば、トランプの長男ドナルド・トランプJr.は、ニューヨークとパリでロシアの情報機関とつながりがある複数の人物と会った。娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問も似たような会合を持ったことが分かっている。

ウィキリークスとロシアの情報機関、そしてトランプ側近とのつながりは、疑いの余地なく立証されてきた。その一方で、トランプはアメリカの情報機関を侮辱し、弱体化させている。さらに国務省の人員を3分の1削減し、多数の高官級ポストを空席のまま放置して、同省を文字どおり空洞化させてきた。

どんな状況であっても、他国の情報機関とつながりがある人間の言動は一切信用するべきでない。ロシア情報機関の職員とたった1度接触したことがあるだけでも、懸念の対象となる。それがトランプの家族と側近の場合は400回以上だ。400回も偶然が重なった確率はゼロに近い。こうした接触が、敵国の情報機関による敵対的活動の一環である確率は100に近い。

しかし情報機関が絡む性質上、法的に有罪判決を勝ち取れるレベルの強力な証拠を集めるのは極めて難しい。このようなケースの被疑者は、そんな事実はないと断固否定すれば、法的責任を逃れられることも多い。

一連の疑惑に対して、トランプが疑惑の内容には一切コメントせず、「フェイクニュース」「魔女狩り」「政治的動機に基づく言い掛かり」「嘘」を連呼する様子は、まさに「否定の一点張り」戦略のように見える。

接触の事実さえ否定すること、嘘をつくこと、そして莫大な資金を融通してもらうことは、意図的か否かにかかわらず、情報機関に関与した人間がやることだ。そこには悪質な狙いがあり、どんな市民も警戒するべきことだ。なぜならそれは、国家に対する反逆行為なのだから。

ましてやアメリカの大統領がロシアの情報機関と関わりを持つことは、アメリカの政策、機構、主権、強さ、そして安全を危険にさらす行為だ。それが今、公然と起きている。

それでも議会共和党上層部は、トランプ支持の姿勢を崩していない。それは大統領に共和党のアジェンダを推進してもらうためであり、何があろうとトランプを支持する30%の有権者のおこぼれにあずかり、自らが再選を果たすためだ。しかしそれは、アメリカ最大の敵の戦略的利益をかなえる行為であり、党利党略(と自己利益)のために国家を裏切る行為だ。

アメリカは南北戦争によって荒廃し、内政的にも国際的にも著しく国力が弱まった。現在のアメリカは当時と同じレベルの危機に直面している。

[本誌2017年12月5日号掲載]

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!

気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを

ウイークデーの朝にお届けします。

ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story