コラム

クールジャパン機構失敗の考察......日本のアニメも漫画も、何も知らない「官」の傲慢

2022年12月11日(日)20時27分

アニメ・漫画・ゲームは「子供向けのもの」という蔑視でもあるのだろうか。しかし子供向けに収まらないからこそこういった作品が海外で受けているのだが、自家撞着的である。『モンスタハンター』ぐらいはプレイ、ないしはプレイ動画くらい観てから海外に乗り出すべきだが、モンハンとは何かということを知らない。時間が無いからプレイ動画を見る余裕がない、というのは言い訳にならない。それこそユーチューブの機能で倍速、三倍速等の機能があるから、早送りで見ればゲームシステムの基本構造は理解できるがそれもしない。彼らの中でゲームのハードは「ゲームボーイ」、良くて「セガサターン」で止まっている。知識が更新されておらず、とにかくカルチャーに触れていない。触れていないのにクールジャパンだ、と無理やりに喧伝して予算を付けるからCJ機構の悲劇が始まったのだ。

投資に失敗しても平気

私はかつて、当時自民党クールジャパン戦略推進特命委員会委員長の山本一太氏に某番組で共演した際に、アニメの話になったことがある。山本氏は後に群馬県知事になるが、流石に委員長だけあって稲田朋美氏よりは遥にアニメの知識があった。山本氏は「私はサブカルが好きで、攻殻機動隊とかが特に好き」と語った。お、なかなか本格派なのかなと私は思った。

しかし「攻殻機動隊の何のシリーズが好きですか」という質問に山本氏は「テレビ版の...」とだけ言って正確に応えられなかった。劇場アニメとしての攻殻機動隊は95年の押井版『GHOST IN THE SHELL』、2004年の続編『イノセンス』、黄瀬和哉版『攻殻機動隊 ARISE』等からなるが、テレビシリーズは神山健治監督の『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(02年)、『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』(04年)等があり、どれを指してテレビ版と言ったのは曖昧である。私はオタクではないが、士郎正宗氏の原作から全てを通読し、劇場・テレビ両方のアニメ版も視聴済みであり、ふつう攻殻機動隊についての一般的見解としてこのような答え方はしない。山本氏は政治家の中ではアニメに相当明るい方だが、それでもこの程度なのである。

要するに彼らは、日本人であり日本社会で生きながら、漫画やアニメといったコンテンツ自体に触れていない。「若い人のカルチャーは良く分からない」という理屈も理由になっていない。そもそも日本におけるアニメ・漫画コンテンツの主力購買層は日本社会全体の高齢化もあって年齢層が上昇している。クリエイターも長年活躍されている人が大勢いて、70歳、80歳の巨匠も珍しくはない。要するに彼らはクールジャパン~と言っておきながら、その中核をなすアニメ・漫画を観るのも読むのも億劫だし、ゲームをプレイする意欲もないし、そもそも関心がないのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議

ワールド

米、中国軍事演習を批判 台湾海峡の一方的な現状変更
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story