コラム

クールジャパン機構失敗の考察......日本のアニメも漫画も、何も知らない「官」の傲慢

2022年12月11日(日)20時27分

『レベルE』については存在すら知らない。『進撃の巨人』がジャンプで連載された作品であると思っている場合もあるから手が付けられない。『ドラえもん』を挙げるのなら、同時にF先生の「大長編」で好きな作品を最低でも三つ挙げなければならない。その回答は『鉄人兵団』『宇宙小戦争』『雲の王国』が望ましいがそれ以外でもよい。しかし「大長編」といっても意味することろが分からないから会話が進まない。「SF短編集」に話が及ぶことなど夢のまた夢の話である。

では回答として頻出する『ドラゴンボール』ならば実際に読んでいるのかというと、その形跡もない。「18号可愛い」と言っても、18号のことを知らない。知らないので会話が成立しない。単に国民的な作品だからという理由で『ドラゴンボール』と言っているだけで、実際に読んでいるわけではない。辛うじてかわぐちかいじ氏の『沈黙の艦隊』や『ジパング』は読んだ、という人もいる。政治的な作品だから読んでいる政治家は多い。しかし『太陽の黙示録』は読んでいない。こっちの方が防災の観点から重要だと思うが読んでいない。要するに「漫画読み」としての最低限度の作法がなっていない。

文化庁がメディア芸術祭をやって素晴らしい作品を毎年選出しているのに、『プラネテス』も『ヴィンランドサガ』も『ヒストリエ』も『シドニアの騎士』も知らない。将棋が趣味ですと言っているにもかかわらず『3月のライオン』を知らない。アフタヌーンの四季賞、といってもまったく分からない。アフタヌーンが雑誌であること自体知らない。

『未来少年コナン』のことを話しても、青山剛昌氏のコナンの方だと思い込んでいる。欧州で迫害にあってきた人々のことですね、などと平気でとぼける。私が言っているのはジプシーではなく「ジムシー」である。何も知らないのであればクールジャパンが~、などと言うべきではないが、とりあえずそれを言うことが時流でありクールだ、と考えている。

ゲームはどうだろう。『スーパーマリオ』『ストリートファイター』『鉄拳』『ポケモン』あたりを挙げられるのならまだマシな方である。『ファイナルファンタジー』の7と10の区別がついていないことなどザラである。FFの文脈の中で「ティーダ」といっても、日産のティーダのことだと思っている。そもそもRPGをプレイしたことがないのではないか。私たちの世代は例えば『ドラゴンクエスト3』に熱狂したが、そういった原体験を彼らは持たないのだろう。つまりセールスマンはその商品の熱心なユーザーでなければならない、という基本原則をまるで踏まえていないのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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