コラム

クールジャパン機構失敗の考察......日本のアニメも漫画も、何も知らない「官」の傲慢

2022年12月11日(日)20時27分

表面的には日本のアニメ、漫画は世界中でファンを獲得している、とする。これは概ね事実だが、CJ機構の構成員は自国のアニメを観ず、漫画も読んでいる形跡がない。もしこの手のカルチャーに少しでも造詣があるのであれば、80年代から90年代~ゼロ年代前半にかけて日本アニメの国際的評価が飛躍的に高まる切っ掛けになった「ジャパニメーション」と呼ばれる作品群を重点配置するのが自然である。

それは大友克洋の『AKIRA』を筆頭として、北米における日本アニメの市場的橋頭保になった押井守の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、日本アニメとして史上初めてカンヌ国際映画祭で上映された『イノセンス』、或いは山賀博之の『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(この作品の製作の為に設立されたのがGAINAXで、ここからのちのエヴァンゲリオンが誕生する)、または国際的な評価が高い今敏の『東京ゴッドファーザーズ』や筒井康隆原作の『パプリカ』など、ないしはその関連作品群である。大友、押井、今らの偉大な日本アニメ界の巨匠のことを何も知らない。手塚ですら極めて怪しい。観ている・読んでいる形跡がない。

実はこの問題はCJ機構だけではない。私が知る限り日本における政治家のほとんどすべてがそうである。日本のアニメ、漫画は世界中でファンを獲得している、クールジャパンこそが日本における数少ない輸出コンテンツだ、成長戦略の中核である、云々。猫も杓子も政治家はこのようにいう。しかし彼らは、自らが称揚するこういった日本のカルチャーにまったく触れている形跡がない。

アニメ、漫画に無知・無関心

日本のアニメ、漫画と言ったコンテンツは日本が有する数少ない輸出コンテンツであると政治家の多くはおしなべて述べるが、では具体的になどういった作品が人気であり、具体的にどのような作品がどういった文化圏で受容されているかの各論になるとまるで答えられない。大体彼らは『ワンピース』と『鬼滅の刃』、『ドラゴンボール』『ドラえもん』などと答える。間違いではないが雑な回答である。

ジャンプ作品であれば『NARUTO』『BLEACH』『デスノート』あたりを即答できない時点で大味のカルチャーにしか触れていない人なんだと一発で分かる。『幽遊白書』は知っていても『ハンター×ハンター』は読んでいない。「トンパがムカつく」と言っても最初のハンター試験編すらうろ覚えなので会話にならない。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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