コラム

招待制「クラブハウス」の高いハードルと陰キャの矜持

2021年02月10日(水)12時20分

よくiPhone保有者に出会うと、「iPhoneの何が便利ですか。保有するとどのように有利なのですか」と聞くことにしている。典型的回答は、「Apple社のノートブック等と連動したり、androidと比して操作・機能性が良く、旅行先で音楽を聴いたりする時にはやはり優位である」というものである。しかし私は基本的に旅行先では落語しか聞かず、しかも未だにそのほとんどをCDで再生しているのでiPhoneの利便性というのが今ひとつわからない。音楽はCDで聴くものという固定観念が消えないのだ。

「連動」というのも意味が分からない。所謂Bluetoothをずっと「青い歯」だと思っていたほど、その手の最新ネットワーク技術に無知な私は、iPhoneに連携して様々な機能を使って様々なサービスと連携できる、などと幾ら言われても、知識が「Gコード」の時代で止まっているので完全に意味をなさない。書籍はマンガ以外は基本的に紙媒体で買い求め、いつでも参照できるように車に積んで移動する。こんな人間が、仮にiPhoneを持っていたとしてもクラブハウスを快適に使いこなせるとは到底思えない。

かつてデジタルデバイド(情報格差)という言葉が話題になった。これは世代間格差と同義で、デジタルに強い若年層と、デジタル時代に取り残された高齢者間の情報格差を主に問題としたものである。国民皆ネット時代になりこの言葉は遠のいたが、現在ではむしろ世代間ではなく水平間格差、つまり同世代における様々なデジタル媒体の普及格差が問題となっているのではないか。

コロナ禍による大不況で格差拡大がますます進むと予想されるが、例えば上場企業の正社員として雇用が保証されている中産階級の30代Aと、非正規雇用で常に雇用の不安にさらされる低所得の30代Bとでは、当然最新のデジタル機器の購買力は異なる。今後は、こういった水平間格差がますます可視化されよう。

一方で、私のように、所得に関係なく単純に「時代の先端についていけない」或いは「興味が無い」という化石化した変人も残置されるだろう。よく「若者はデジタルに強い」みたいに言われるのは嘘だ。単に現代の青年層は物心ついた時からネットがありスマホがあり、これへの接触時間が長いだけで、こういったデジタルツールへのリテラシーが高いことを意味するわけではない。その証拠に、一部の迷惑系ユーチューバーを筆頭として、様々なネットでの愉快犯的事件が若年層から出ている。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均先物3万5000円下回る、トランプ「相互関

ワールド

英、米「相互関税」への対抗措置急がず 冷静に対応=

ビジネス

米国株式市場=上昇、相互関税発表にらみ値動きの荒い

ビジネス

NY外為市場=ドル/円上昇、対ユーロでは下落 米相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story