コラム

招待制「クラブハウス」の高いハードルと陰キャの矜持

2021年02月10日(水)12時20分

このような私の生活スタイルに於いて、招待制を前提とするクラブハウスは過酷に思える。同SNSは従来のSNSとは違って音声交流がメインであることが特徴のようだが、そもそも、仕事以外で人と会話をする経験が長らく途絶している私は、仕事外の話題で、他者とどう喋ってよいかよくわからない。所謂「他愛ない雑談」というのが出来ないのだ。今日の天気とか、昨日あった出来事とか、そういう会話のとっかかりをどう掴んでよいかよくわからないのである。

だから私の会話スタイルというのは、常に一方的な「独演」に近いスタイルになる。つまり会話のキャッチボールを拒否して、ずっとしゃべり続けることはかなり得意だ。これが講じて「独演会」というイベントを何回かやったが、それは畢竟最早仕事の範疇であって、こんな調子の私に友人などできるわけがない。

以前、私のマネージャーから「インスタグラムを始めてはどうですか」と提案された。なるほど昨今のインスタ全盛時代にあってそれに乗らぬ手は無かろう。しかし私は、インスタを始めてすぐに絶望の淵に立たされたのである。

インスタは常に写真を添付して投稿しなければならない。しかし、前述したとおり無味乾燥の生活を何年も続けている私は、インスタに投稿できるだけの色鮮やかな生活体験を持たないのだ。他者の投稿を観ると、外食の様子とかパーティの様子とかの絢爛な写真が煌めいているが、毎度大衆チェーン店で食事を済ませて、基本的に千葉の松戸に引き籠っている私からすれば、毎日牛皿や鯖焼きの写真を載せるというのも無理がある。

さらに去年の夏前から厳格な糖質制限を始めたので、毎日の食事は鶏肉類とサラダ、ハム、チーズ等であり、ますます載せる写真が無い。こうして私のインスタは完全放置状態となって今に至る。

私のような人間をネットスラングで「陰キャ」というのだろうが、陰キャは果たしてクラブハウスに活路を見いだせるのだろうか。そして私と同じような日本全国の陰キャにとって、クラブハウスへの参加というのは極めて高いハードルの様な気がする。

さて、こういった前提条件の厳しさを捨て置いたとしても、私がクラブハウスへ参加することは現段階では絶対にできないことに気がついた。このSNSのアプリ導入は、2021年2月現在iPhoneにしか対応していないのである。よく私は何故か知らぬが「ITに詳しそう」と言われるが、実は全くのアナログ人間である。

無論当然、仕事に必要なある種の限定されたアプリケーションの操作には習熟しているものの、所詮それは一般ユーザーの域を出ない。まして、自宅から外に出る習慣が希薄なので、移動体端末に高性能を求める必要がない。私の保有するスマホは、SONY製の旧式のandroidで、体躯全般がボロボロになっている。しかし私はそれで何ら不自由していないので、iPhoneを欲しいと思ったことが無い。仕事では別途ガラケーを使っており、むしろ使用頻度はそちらの方が高い。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story