コラム

失言王「森喜朗」から変質した自民党20年史

2021年02月08日(月)19時00分

こうして誕生した森内閣であったが、森氏自身の復古的、タカ派的観点が災いして次々と失言・舌禍事件がマスコミをにぎわせ、森内閣は発足劈頭から極めて厳しい局面に立たされた。総理就任直後の2000年5月、ただでさえ「密室内閣」としてその誕生経緯に疑問符を持たれていた森内閣に重大な激震が走る。所謂「神の国発言」である。

「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く(以下略)」

森総理が神道政治連盟国会議員懇談会での挨拶の中で放ったこの言葉が、「政教分離違反ではないか」「軍国主義的傾向の復活」としてマスメディアに一斉に報道され、大問題になった

今でこそ、与党国会議員が「先の戦争は自衛戦争だった」とか「八紘一宇は(日本が)大切にしてきた価値観」などと公言・執筆して憚らず、それをネット右翼・保守界隈が援護射撃して特段問題にもならないのであるが、現在から20年前の世論は森氏のこの発言を「重大な問題である」と受け止め、集中砲火を浴びせた。何とも皮肉であるが、現在と20年前の世論は幸か不幸かこうも変貌したのである。

私は「神の国発言」の直後、受験を終えて大学生になったが、当時私の大学の政治領域の教授や講師は、「森首相の"神の国発言"は軍国日本の再来であり、軍靴の響きが聞こえんことを踏まえた上で、文字数1200文字以上の現政権に批判的なレポートを提出せよ」と迫った。

当然単位が欲しい私は、その教授の意の沿うように、「森総理の"神の国発言"は見過ごすことのできぬ復古主義の再来であり、日本国憲法の平和精神を踏みにじる許しがたい蛮行で、そもそも政教分離違反であるから、これは無産人民とそれを代弁するマスメディアの外野的圧力によって、即刻森内閣の反動的策動を瓦解させ、プロレタリアートが真に希求する民主的傾向を持った人民連合政府の樹立に邁進するべきである」というレポートを書いて最高に近い「A」評定を貰ったのを今でも覚えている。

当時私は右翼青年だったので、レポートに書いた内容は全部本心ではないウソだった。が、ともかくも、インターネットがまだ全世帯に普及するに遠く、ネット右翼と呼ばれる層が勃興期の初期かあるいはほとんど認知されていない時代だったのも災いしてか、当時の世論は森氏の失言を許さなかった。

森内閣から小泉内閣へ──「加藤の乱」の失敗と継続された清和会内閣

しかし森氏の失言はこうしたバッシングを受けてもなおも続いた。決定的だったのは、第42回衆議院議員選挙(2000年6月)の総選挙の遊説中、記者会見で「(選挙に関心のない有権者は)寝てしまってくれればいい」という失言だった。前述の「神の国発言」はイデオロギーの違いでまだ評価は分かれるとはいえ、政治思想の左右を超えて「無党派層は寝ていろ」という発言は有権者の強い顰蹙を買った。

結果、自民党は239議席と、前回選挙から39議席を減らす大敗北を喫し、当時の衆議員議員定数480人の半数にすら届かなかった。自公保(自民・公明・保守党)の連立で何とか過半数を獲得したものの、当然「森降ろし」は旋風となって巻き起こる。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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