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埼玉県虐待禁止条例案の裏にある「伝統的子育て」思想とは
大きな批判にあったこの条例案だが、この条例案を擁護する人もいる。アメリカなど諸外国では、子供の留守番禁止や登下校の親の送り迎えは常識だというのだ。確かにアメリカの一部の州では留守番禁止年齢を法律として定めるなど(多くは12歳まで)、親の「放置」に厳しい措置をとっており、それと比較すれば決して異常な条例案というわけではない。しかしながら、銃社会であり、治安の面から多くの心配をせざるを得ないアメリカの状況と、日本の状況を単純に比べることはできない。
また、アメリカはベビーシッター文化がある。2019年の民間企業の調査によれば、アメリカのベビーシッター利用率は5割を超えているのに対し、日本のそれは1割にも満たない。フランスも子供の留守番に厳しい国の一つだが、ベビーシッターや保育サービスに補助金が出る。さらに、アメリカのベビーシッターは、高校生によるアルバイトによっても担われている。一方、埼玉県の改正条例案では高校生の子供との留守番も禁止とされており、アメリカよりも制約が強いといえる。
厳しい「放置」規制は過保護という指摘も
登下校の親の送り迎えや留守番禁止が常識となっている国でも、そのやり方の是非については議論がある。虐待やネグレクトを防止する必要があるのは当然として、一時も子供を一人にさせておかず、どこへ行くにも大人を同伴させる子育ては過保護という意見も近年では登場している。たとえばアメリカのユタ州では2018年に留守番規制が緩和されることになるなど、より柔軟な子育てを認める動きもある。
ドイツでは、日本語の「鍵っ子」に相当する言葉としてSchlüßelkind(Schlüßel=鍵、Kind=子供)という単語がある。1960年代、家族形態が多様化していく時代に登場し、日本と同じく当初は「かわいそうな子供」というニュアンスで用いられていたが、最近の研究や調査では、Schlüßelkindは学力の低下や非行に繋がりやすいという偏見が見直され、むしろ子供の自立にとってよい面もあると指摘されている。
このように、「子供たちの安全」を一番に考えたとしても、何をどこまでどうするべきかは、治安やサポート体制の有無を含め、国や地域、家庭の事情によって異なる。それを条例で一律に禁止事項を決めるのは、やはり乱暴だったいうことになる。
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