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埼玉県虐待禁止条例案の裏にある「伝統的子育て」思想とは
子供の「放置」に厳しい国では、同時に親の負担を減らすような、育児サービスを外注できる仕組みづくりや、育児と仕事を両立できる働き方改革にも力を入れている。しかし日本(埼玉県)では、そのような政策が不十分な中で、突然に家庭に負担を押し付けるかのような条例改正案が提出された。田村議員のコメントでも、「親の責任」が強調されている。
フェミニズム研究で知られる山口智美・斉藤正美両氏が執筆し、日本のジェンダー平等やLGBT運動の抑圧に関して宗教右派と政治の結びつきが果たした役割が記されている『宗教右派とフェミニズム』(青弓社、2023年)によれば、埼玉県は家庭教育「先進県」であり、「親学」発祥の地だという。
「親学」とは、「伝統的な子育て」により「教育の質」をあげることを目的とした右派系の運動であり、「少なくとも3歳までは母親が子育てに専念するべき」など性別役割分業や、三世代同居のような伝統的家族観を推奨している。この運動には日本会議や旧統一教会など宗教系の右派も糾合しているが、これを2004年、「親学」提唱者の高橋史朗氏を教育委員として招くことで、日本で最初に行政レベルで推進したのが上田清司前埼玉県知事だ。
SNSではこの条例改正案について、「旧統一教会」、あるいは「親学」と人脈を共有する「共同親権」推進派が自分たちの目的を達成するために提出したものだという議論も出始めている。しかし現状では、そうした推測はまだ陰謀論の域を出ない。
むしろここで問題にすべきなのは、子供の「放置」を防ごうとするときに、行政のサポートを充実させるのではなく、まずシングルや共働きなど伝統的家族観にそぐわない家庭に対して懲罰的な規制をかけるという発想になったことではないか。つまり、「親学」的な考え方、子育ては家庭が、特に母親が、全てを犠牲にして取り組むべきものだ、という考え方が、埼玉の保守系議員の中に無意識的に刷り込まれてしまっていることではないだろうか。
子供の虐待や放置が問題なのは当然であり、何よりまず親自身が子供の安全を願っているはずだ。だからこそ、今後また条例改正案が出るとするなら、その条例案は特定の家族形態を押し付けるものか、それとも多様な家族形態を前提にしているのかを丁寧にチェックする必要があるだろう。
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