コラム

NYタイムズも過激と評した「集団自決」論を説き続ける成田氏は何がしたいのか

2023年02月22日(水)16時58分

集団自決論は大量虐殺に結びつく(写真はイメージです) Boule-shutterstock.

<子どもたちにまで「老人が自動的にいなくなるシステム」が必要だと思わせる非道>

先月のコラムで、イエール大学アシスタントプロフェッサーである成田悠輔の「集団自決」発言の問題性について取り扱った。今月12日に『ニューヨーク・タイムズ』が同発言を記事にしたことによって、この発言は再び注目されるようになった。同記事では成田氏は自分の発言は世代交代を表すメタファーだったと弁明している。彼とともにYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」の番組『Re:Hack』でパーソナリティをつとめているひろゆき氏もTwitterで、記事では成田氏のメタファーが恣意的に切り取られていると擁護している。彼のように、『ニューヨーク・タイムズ』の記事が出て以降も成田氏を擁護するメディア関係者やファンは多い。

しかし先月のコラムでも指摘したように、「集団自決」発言はそれ自体が扇動的なメッセージとなりうるのであり、メタファーでは済まされない。また、これも先月のコラムで指摘しているが、成田氏は世代交代のメタファーではなく、福祉削減のために高齢者の自死を推奨するメッセージとして直接的に「集団自決」あるいは「切腹」いった表現を用いていることもある。『ニューヨーク・タイムズ』は成田氏の発言を「これ以上ないほど過激」と報道しており、ドイツの『シュピーゲル』紙など各国のメディアでも成田発言に関する同内容の後追い記事が出たが、今もなお日本の大手メディアは沈黙しており、成田氏を起用し続けている。これは恐ろしい事態なのだ。

「集団自決」を広げる動画

成田氏や彼に近い人たちは、「集団自決」発言はあくまでメタファーであるとしている。しかし、そのような弁護を空虚なものにするかのように、高齢者の生命を奪えというメッセージを、成田氏が子どもたちに対して実質的に発している決定的な動画が拡散されている。先述の番組『Re:Hack』における「小中高生20人vsひろゆき&成田」という企画だ。動画では成田氏の発言を追いかけているという少年が登場し、「成田さんはよく『老人は自害しろ』と言ってるじゃないですか。老人は実際退散した方がいいと思うんですよ日本から。老人が自動でいなくなるシステムをつくるとしたらどうやってつくりますか?」と質問する。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、復活祭の一時停戦を宣言 ウクライナ

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 5
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 10
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story