コラム

東京五輪は始まる前から失敗していた

2021年07月24日(土)14時00分

組織がこうなってしまっては、もう誰にも修正できない。その場を取り繕えば、どんな嘘をついてもいいのだ。まず選手村から毎日感染者を出している時点で「安心・安全な五輪」という前提は崩れている。オリンピック招致の際、「理想的な気候」とされた真夏の東京で、ロシアの選手が熱中症になった。世界一コストがかからないはずの五輪は、ぶっちぎりで世界一コストがかかった五輪となった。明らかな嘘が許されているという異常な事態だが、そのツケを払うのは日本の市民なのだ。

開会式当日、ブルーインパルスが東京の空に五輪マークを描こうとした。だが、気候や天候の影響もあって失敗に終わった。しかし、報道ではそれがあたかもそれが成功したかのように扱われている。写真でも、五輪マークの状態ではなく、真っ直ぐ飛ぶブルーインパルスや上空を眺める観客の人々(密!)が使われており、なるほどこれがプロパガンダの手法かと思った。まったく東京オリンピックを象徴している一幕であった。

スキャンダルは終わらない

いじめ、差別、歴史認識などの理由により、開会式の辞任ラッシュは起こった。にもかかわらず、全ての問題が片付いたわけではない。開会式で使われたゲームミュージック。その一つに『ドラゴンクエスト』の楽曲があったが、作曲者すぎやまこういちは、右派人脈に連なる人物として、様々な差別や歴史修正主義に関わっている。具体的には、杉田水脈のLGBT差別発言を支持し、日本軍「慰安婦」問題を否認するなどしている。

小山田圭吾、のぶみ、小林賢太郎を退かせるなら、すぎやまこういちの楽曲を用いることもありえない。またこれとは別件で、アフリカ系ミュージシャンをアフリカ系だという理由で拒んだという告発も登場している。こうした問題はこれまでと同様に世界に知られるべきだ。そして、大会関係者にはこれまでの問題全ての責任を、しっかり取ってもらわなければならない。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 10
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story