コラム

東京五輪は始まる前から失敗していた

2021年07月24日(土)14時00分

また、SWCは確かに各国政府に強い影響力があるにせよ、声明を出してからわずか1日で解任を決定したというのは、かなり解せない。財務大臣の麻生太郎は、安倍政権時代に憲法改正問題について「ナチスの手口に学んだらどうかね」という発言を行い、やはりSWCの抗議を受けたが、麻生大臣は今に至るまで健在なのだ(私は今からでも再問題化して辞任すべきだと思っている)。

もちろん中山副大臣が騒がなくても、この件が問題になっていた可能性も十分ある。しかし、この方向から問題が広がるとは関係者は思っていなかったのは確かだろう。もはやオリンピック賛成派と反対派の対立ではない。組織委員会も政府も、オリンピックの統治に失敗している。だからこそ対応にも迷走を重ねているのだ。

組織委員会の任命責任はどうなった

オリンピック開会式は、当初は野村萬斎らの演出グループが仕切る予定だった。しかし昨年末に突然佐々木宏がクリエーティブディレクターに就任することが発表され、メンバーは大きく入れ替わった。その佐々木宏も、当コラムでも扱った芸人の渡辺直美をブタにする演出プランが批判され、3月に辞任することになった。今年4月には、週刊文集が開会式にまつわる組織委員会利権の問題を暴露していた。

こうした今年春の一連の出来事と、大会前の一連の出来事を比べたとき、確実な共通点がある。組織委員会のトップが、誰も責任を取っていないことだ。オリンピックを演出する責任者を推薦あるいは任命したのが誰であれ、その人物は必ず存在する。しかし、今年春のゴタゴタを受けて、現場を混乱させた責任を取って辞任した組織委員会のトップは誰もいない。開会式問題に限らず、コロナ対策や国立競技場の問題、JOC幹部の自殺といった「不祥事」によって辞任したトップは、組織委員会から政府関係者含め、誰もいないのだ。せいぜい森喜朗が自分自身の舌禍によって辞めたぐらいだ。

どんなに問題が起こっても、上が責任を取らなくていいのなら、大会の運営を真面目にやろうとするトップはいないだろう。問題が起これば下の責任にすればいいからだ。下は下で、そんな上司のもと真面目にやっても仕方がないと思うだろう。開会式のように、真面目に演出を考えても利権が絡む色々なものを上がねじ込んでくるのだ。まともな人は辞めていく。人事は「お友達」で回すしかない。結局、組織全体が無能になり、失敗が繰り返されることになる。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story