コラム

遠藤誉から、大陸へのメッセージ

2016年10月04日(火)13時41分



――シンポジウムでは、「毛沢東は抗日戦争勝利記念日を祝いたがらなかった」「南京事件に触れてこなかった」ことの根拠として、中共中央文献研究所が編集した『毛沢東年譜』にこの2つについてまったく記載がないことを挙げていた。だが、毛沢東が日本軍と共謀していたから抗日戦争勝利記念日を祝いたがらなかったとか、南京で戦っていたのは蒋介石で自分は南京にいなかったから南京には触れられたくなかった、というのは推測に過ぎないのではないか

 毛沢東が、「自分が日本軍と共謀したから......」なんてことを言うはずはもちろんないし、中国としてもそんなものの記録を残させるはずがない。しかし一体彼がいつ何をどうやったかということをしっかり確認していくと、『毛沢東年譜』には、毎日何時から何時まで何をやったということが全部書かれている。その中に、抗日戦争勝利記念日を祝ったというのが1度も出てこない。南京事件に関しては、教科書に載っていない、載せさせなかったという事実がある。南京で戦っていたのは蒋介石率いる国民党軍で、自分は南京で戦っていないから触れられたくない。南京事件が起きたときに毛沢東は祝杯を挙げた、と書いている人もいる。毛沢東と一緒に戦っていた幹部たちが後に離反するのだが、彼らがいくつも記録として残している。少なくとも、毛沢東が南京陥落を非常に喜んだということは記録にある。(もともと物理学者なので)自分は物理学者としての姿勢でやっているので、エビデンス(証拠)に基づかない限りは絶対に文字化しない。

――ご自分が7歳のときに戦争が終わった後、満州国の首都だった「新京」(現在の長春)で飢餓体験をした。その体験は、別の著書『チャーズ』にも書かれている。この時の強烈な原体験が、自分の毛沢東を観る目に何らかの影響を与えていると思うか

 そう思う。毛沢東は長春を包囲させて「長春を死城たらしめよ」ということを林彪(りんぴょう)との往復書簡の中で書いているのだが、その毛沢東という人物と、その歴史を残させない中国共産党と、私たちが小さいころから「毛沢東ほど偉大な人物はいない」「中国共産党ほど偉大な党はない」と教育されながら育ってきたことには、感覚的なギャップがあった。共産党を批判的に言ってはいけない、毛沢東を尊敬しない気持ちになってはいけないという抑制的な感覚が、小さいころからずっとある。中華人民共和国で生まれ育った人間でないとなかなか分からない心理だと思うが、暗黙の抑圧だ。

プロフィール

遠藤誉

中国共産党の虚構を暴く近著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)がアメリカで認められ、ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブに招聘され講演を行う。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。

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