コラム

遠藤誉から、大陸へのメッセージ

2016年10月04日(火)13時41分

――著書『毛沢東 日本軍と共謀した男』の中で、毛沢東の時代から続く中国人の精神構造について「大地のトラウマ」という言葉を使って説明している

 わずか2万人ほどになっていた中国共産党軍がなぜ勢力を伸ばし、毛沢東が政権を取ることができたのか。それは毛沢東が、人口の90%ほどを占め、農奴のように使われていた農民に対して、地主に反抗して自分たちの自由を取り戻せ、蜂起せよ、立ち上がれ、と呼びかけたからだ。立ち上がった農民たちは、地主1人に対してみんなで殴ったり蹴ったり石を投げたり、地主が死ぬまで色々なことをやる。それを思い切りやらない人間というのは革命の心がない「反革命分子」として逆にみんなにやられてしまうし、今度は自分が血祭りにあげられる。

 退路をなくさせる――これは毛沢東のすごい戦略だと思う。常に1つの標的を定めてそれを徹底してやっつけ、やっつけた人間は人格的にも身分的にもとても高く位置付けられて、良いポジションが与えられ、兵士になったりする。そういう戦いを繰り返させて、中国全土を覆うように広げていった。

 中華人民共和国が誕生する過程がそうだったため、60年代に起きた文化大革命のときも、標的を作ってみんなで罵倒して殴ってということをやった。それをやらないと、お前は革命の心が強くないと言われてやられてしまうからだ。中国の人民はそういう精神文化の中で育ってきて、それが心の中に染みついている。だから反日暴動が起きたときにも、反日を叫ばないとお前は売国奴だと言われてしまうので、誰かが叫びはじめたら自分も叫ぶ。中国が誕生する過程で培われてきたこの精神性、精神的な土壌のことを、私は「大地のトラウマ」と呼んでいる。

――習近平政権は今、そのトラウマに火をつけるようなことをやっているのか

 習近平政権には2つの側面がある。1つは、習近平はそうした反日暴動は最終的には反政府デモに行きつくことを前・胡錦涛政権時代から学んでいるので、反日デモを絶対に起こさせないように抑えている。反政府デモが起きたら今の政権は持たないということを十分に分かっているからだ。しかし一方で自分が愛国主義教育をやってきた手前、自分が日本に対してこれほどの強硬だということを人民に見せていないと、「お前が売国政府だ」と必ず言われることになる。あれほど強硬な対日強硬策をやっているのはそのためだ。

――習近平自身が、「大地のトラウマ」を抱えているということか

 そうだ。人民の声を一番怖がっている。

プロフィール

遠藤誉

中国共産党の虚構を暴く近著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)がアメリカで認められ、ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブに招聘され講演を行う。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米企業、ロシア市場に回帰も 和平実現なら=ウィトコ

ワールド

シリア国民対話会議、25日開始

ワールド

インドEV関税優遇策、充電網整備への投資は制限=政

ワールド

ウィトコフ米特使、中東を今週訪問 ガザ停戦の延長目
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story