コラム

SNSとビッグデータから生まれたソウル市「深夜バス」

2015年10月07日(水)18時01分

 ソウル市は試験的に2012年末、市内バスの運行を2時間延長してみた。SNS上で市民から喜びの声が届くと、ソウル市は通信キャリアのKTと提携、本格的に深夜バス運行について研究を始めた。個人情報は侵害せず、公益のためにデータを使う、ということでKTもデータを提供した。

 ソウル市はKTから無料で30億件もの通話量データをもらい、夜12時から朝5時まで携帯電話の受発信が多い基地局の位置を調べた。交通カード会社とタクシー会社の協力を得て受け取った深夜時間帯のタクシー乗下車位置データ500万件を基地局の位置と組み合わせ、深夜時間帯の人の流れを1キロ単位に区切ってソウル市の地図に記録した。その流れをつなぐ形で、2013年4月、2つの路線で深夜バスの運行を始めた。運行は地下鉄の終電が終わった時間から始発が出るまで、40~45分ごとに1台にした。

 深夜バスは常に定員の120%も乗車するほど人気を集めた。市民に絶賛された深夜バスは2013年9月から路線を増やし、2015年9月現在、8路線を運行している。ソウル市に「都バス」のような市営バスはないが、ソウル市のバス会社は市の補助金をもらっているので、協力体制は整っていた。

 深夜バスの運賃は昼間のバスの1.5倍程度で、庶民にも負担が少ない。韓国のバスは(地下鉄も)乗り換える度に料金が発生するのではなく、乗った総距離分の料金を払う。深夜バスを乗り換えればタクシーを利用しなくても自宅まで帰れる。ソウル市の無料交通アプリを利用すれば、バスが今どこを走っているのかがわかるので、バスを待ち続けることもない。

 ソウル市の深夜バスは企業から無償でデータをもらい、市が持っているデータもフルに活用したことで予算も大幅に節減できた。通常この規模のバス路線開発には100億ウォン(約11億円)以上かかるそうだが、ソウル市はたった2000万ウォン(約220万円)の予算しか使わなかった。

 現在、ソウル市はSNSとビッグデータを組み合わせて、市内のタクシー配車改善作業、お年寄りの交通事故パターン分析などを行っている。

プロフィール

趙 章恩

韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story