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宇宙飛行士にして医学者、古川聡さんに聞いた「地球生活で活かせる宇宙の知見」と「『医師が宇宙飛行士』の利点」
筆者が「古川さんは大学教授っぽいな」と感じる理由の2つめは、「宇宙に関する知見を手際よくまとめて、さらに勉強の成果を出し惜しみなく他人とシェアするところ」です。
古川さんはいくつかの論文を執筆しています。とくに宇宙放射線生物学に関するレビュー論文(※独自研究の成果をまとめた論文とは異なり、あるテーマに沿って過去に実施された研究を検証し、論拠をまとめたもの)では、この分野の研究史と現状が痒いところに手が届くような構成で余すことなく語られています。
──宇宙で暮らす時代を迎えることを見据えた、古川さんの宇宙放射線生物学のレビュー論文はすごく面白くて、何度も読みました。古川さんがこれからの宇宙医学で気になること、期待することを教えてください。
古川 宇宙医学全体としては、月を目指す際に国際宇宙ステーションのような地球低軌道(※Low Earth Orbit:高度2000キロまでの軌道)よりも放射線環境が過酷になります。なので遺伝子を傷つけて発がんという可能性のほかに、例えば長期的に中枢神経系に影響があるのではないかという仮説が最近あって、NASAなどによって研究が進んでいます。
月面特有の問題としては、レゴリスの研究も必要ですね。月面で宇宙遊泳したときに、ローバーや宇宙基地にレゴリスをどう持ち込むかが課題になると思います。月面と、さらにその先を狙う際には「医療の自動化、自律化」がキーワードになります。
レゴリスとは、粉末状の月の石のことです。アポロ17号の宇宙飛行士の宇宙服は月面活動後、レゴリスによって炭鉱夫のように粉塵まみれになったと言います。さらに月面で活動した12人全員が、目の痛みや鼻づまりといった花粉症のような症状を示したそうです。古川さんはこれまでも、久しぶりに人類が月面に着陸することになる「アルテミス計画」で、宇宙飛行士が月面歩行でレゴリスを吸い込むことによる呼吸器の影響について懸念を示しています。
また、JAXAの7人の現役宇宙飛行士のうち、古川さん、金井さん、米田さんの3人が医学のバックグラウンドを持ちます。古川さんは「医師の宇宙飛行士」の利点として、①生命科学系の実験でその背景まで理解して実施し、その意義を自分の言葉で説明できる、②宇宙で体調不良者が現れた場合に仲間に安心してもらえる、などを挙げています。
ISSにいる宇宙飛行士は、緊急の時には数時間~1日くらいで地球に帰還することが可能です。しかし、月では最低3日間、火星では場合によっては数カ月もかかってしまいます。
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