コラム

宇宙飛行士にして医学者、古川聡さんに聞いた「地球生活で活かせる宇宙の知見」と「『医師が宇宙飛行士』の利点」

2024年12月03日(火)17時10分

その後、独自インタビューの機会を得て、医学者かつ宇宙飛行士である古川さんにさらに「宇宙と人体」について尋ねてみました。

──古川さんが実際に宇宙に行って得られた知見を地球人に活かすアイディアやアドバイスはありますか。

古川 地球では「重力を友人にして、うまく活かす」のが良いのではないかと思いました。宇宙では微小重力なので「老化の加速モデル」が得られます。それをうまく地上の人に利用することも考えられますけれども、宇宙空間にいる人の身体にはちょっと困ったことがいろいろと起こります。筋肉が委縮したりとか、骨密度が減少したりとかですね。なので、地球上では逆に考えて、その重力をうまく使って体を動かすことで、健康を維持できるのではないかなと考えてます。

普段の日常生活で身の回りのことをするのも立派な運動ですし、歩くのも立派な運動です。重力を使って健康を維持する人間の体をいろいろ適用する反面、使わないでいるとどうしても萎縮したり、衰えてきたりしますので、体を使うことはとても大切じゃないかなと思います。

「老化の加速モデル」とは、宇宙環境で宇宙飛行士に現れる急速な骨量減少や筋萎縮、柔軟性の低下などの機能変化が、老化による諸症状によく似ていることを指します。古川さんは帰還直後の4月に「運動機器を使ってトレーニングしていたおかげで、筋肉や骨量の減少は最小限に抑えられていた。一方、80歳になったらこうなると想像するくらい、体のバランス、首や背骨、股関節の柔軟性が落ちて、宇宙が老化の加速モデルだと実感した」と回想しています。

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独自インタビューでの古川さん(6月19日) 筆者撮影

──宇宙空間では、機具を使って意識をして運動をしなければ筋力を維持できないのに、地球では重力のおかげで歩いているだけでも十分な運動になるということですね。実際に古川さんが地球に戻ってきて、重力を実感することはありますか。

古川 ただ歩くだけでも、しっかり振動によって骨に刺激が加わっているなというのは実感します。立ってるだけでも背骨、あるいは脊柱起立筋などをしっかり使っているとすごく感じました。逆に、(宇宙から)帰ってきた直後は筋肉が衰えていたのでとても苦しかったですし、すぐに疲れてしまって横になったりしていました。(宇宙で)機械を使っても、鍛えやすいところと鍛えにくいところがあって、やっぱり鍛えにくいところが(不調になって)響いたのだなと思いました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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