コラム

小惑星衝突の脅威は「核兵器」で軽減できる? 「第2の月」出現中のいま知りたい「地球防衛研究」の最前線

2024年10月09日(水)17時50分

地球近傍天体と言えば、24年10月現在、地球には「第2の月」が誕生していることも注目を集めています。

アルジェナ小惑星帯にあった小惑星2024 PT5が地球の重力によって捕獲され、9月29日から11月25日まで約2カ月間、地球周囲を衛星の月のように周回する見込みです。詳細は、軌道計算を行ったスペインのマドリード・コンプルテンセ大の研究チームによって、アメリカ天文学会のオープンアクセス誌「Research Notes of the AAS」に発表されました。

人工物でなく天然天体が、一時的にでも地球の周回軌道に入って衛星となり「第2の月」として観測されるのは、今回で3回目です。

2006年9月~07年6月までの間、地球を周回していた小惑星2006 RH120は、直径3~6メートルと見積もられています。この星は2028年に地球に再度接近するため、もう一度「第2の月」になるかもしれないと考えられています。

2020年2月末に見つかった小惑星2020 CD3は、その3年ほど前から地球周回軌道に入っていたと推測され、2020年5月頃に地球の重力影響圏から離れました。直径が約1~1.5メートルと小さかったため、詳細を観測するのは困難でした。この年は、秋にも、地球を周回する小天体2020 SOが見つかりました。けれど、軌道を詳細に調べた結果、1966年9月にNASAの月探査機「サーベイヤー2号」の打ち上げロケットの残骸であることが分かりました。

2024 PT5は24年8月7日に、小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)によって発見されました。直径は約10 メートルで、これまでの「第2の月」よりも、やや大きいと見られています。

2024PT5が11月末に地球の周回軌道から外れると聞くと、地球に落下するのではないかと心配する人もいるかもしれません。けれど、これまでの「第2の月」と同様、太陽の重力に捕まって再び太陽の周りを周回すると考えられています。

小惑星が地球に近づく時期の予想をモデル化

地球近傍には、現在36000個以上の小惑星が見つかっています。それほど多く、しかも今後も見つかり続けるのであれば、監視の目をくぐり抜けて地球に衝突してしまう小惑星が現れかねないのでしょうか。

NASAは、万が一衝突した場合に甚大な被害が見込まれる直径1キロ以上の地球近傍小惑星約1000個のうち、95%以上について、すでにカタログ化しています。さらに21年に新しい小惑星衝突監視アルゴリズムを開発し、「新たに発見された小惑星でも、1時間もかからずに今後 100 年間の衝突確率を確実に得られる」と報告しました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ラムシュタイン会合の開催延期、バイデン氏の訪独取り

ビジネス

利下げ急ぐべきでない、今後はより緩やかなペースで=

ビジネス

ユーロ圏インフレに上振れリスク、賃金上昇など=アイ

ワールド

ハンガリーの対ロシア・中国政策、安全保障のリスクに
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 2
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイスラエルを待つ落とし穴
  • 3
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設を奪還か、当局が作戦映像を公開
  • 4
    ストームシャドウ、GMLRSでロシア軍司令部を「首尾よ…
  • 5
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 6
    神田伯山が語る25年大河ドラマ主人公・蔦屋重三郎「…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 8
    トランプに異変? 不屈の男がここにきて「愛」を語り…
  • 9
    EUでドイツの影響力低下、中国EV関税問題で鮮明に
  • 10
    ウクライナ、ロシア国境奥深くの石油施設に猛攻 ア…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 3
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」の中国が世界から見捨てられる
  • 4
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 5
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 6
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 7
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 8
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 9
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 10
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 4
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 5
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 6
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 7
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 8
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 9
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 10
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story